Eternal Memories(追憶) -12-

 

 

31日…

ついにこの日が来た…。

あの人が、アメリカに…触れることも出来ないほど…

時刻すら、空すら共有できないほど…遠くに行ってしまう。

 

朝、着替えをしに真湖の家から自分の家に戻る。

シャワーを浴び、お気に入りの服に着替えて、鏡の前に立つ。

メイクをして、昨日貰った香水をシュッとつける。

今日は最高のメイクで、最高の表情と姿勢で、海流さんを送り出したい。

私のメイクも、表情も、姿勢も……

……こんなに狂おしいほどの想いも………

全てあの人が授けてくれたものだから…。

 

きっと笑って送り出してみせる…あの人が軽い心で行けるように。

「にーーーー。よしっ!」

私は鏡の前で笑顔を作り、姿勢を正して家を出た。

 

 


 

 

「おはよう、みんな。」

「おう、月子。」

「おはよう、月ちゃん。」

店に着くと、開店2時間前だというのに、もうみんな揃って控え室で話していた。

「月ちゃん、ここに座りな。」

悠馬さんが、自分の左隣を指差す。

右側は海流さん…そしてその更に右には、今日も綺麗だけど…どことなく寂しげな千春さんがいた。

「いよいよっすね、海流さん。今から予定変更とかしません?」

「そうっすよ、関さんの言う通り!やめましょやめましょ、日本人は日本食が一番ですって!」

「ばーか。最新の研究設備が俺を待ってんだよ♪メシは…確かに日本食が一番だけどな。」

海流さんが笑って言う。

「日本にいても研究はできるでしょ?海流さん。」

「やめとけ、千春。何言ったってこの研究バカには馬の耳に念仏だよ。」

「あはは、研究バカ…確かにっ!!」

悠馬さんの言葉に私が笑いながら返すと、

「何だって、月子?」

海流さんは横目でこっちを見ながらそう言った。

「ぅ…何でもない。」

「ははっ、もう降参かよ。」

海流さんが笑ってそう言うと、その様子を見て今度は関ちゃんが後に続く。

「月ちゃんもっと頑張れ!そんな研究バカに負けるな!」

「…何だって、関?」

「うげっ……すいません…調子にのりました…。…お許しを。」

「関、お前の方が情けねーぞ。」

悠馬さんがさらっと言い放った台詞に店のみんなが笑い出す。

 

神さま、今だけでいいから…どうか時の流れをゆるやかにしてください…。

そして…笑って送り出せるように、

「行かないで」と言ってしまわないために…私に強さをください…。

 

もう少し、もう少しだから…。

 

 


 

 

祈りもむなしく、時間は瞬く間に過ぎてしまい、

とうとう海流さんが店を出る予定時刻…12時になってしまった。

「おい、海流。時間!」

悠馬さんが店から顔を出して海流さんに声をかける。

「ああ、分かってる。」

「よし、車まわすな。でも、その前にベッドルームに行ってちょっと待っててくれ。

 みんな一人づつ挨拶したいって言ってるから。」

「最後の別れってわけでもないのに大袈裟だな。」

海流さんは苦笑いしてベッドルームに入っていく。

 

まず最初の挨拶は、関ちゃん。

明るい表情でベッドルームに行き、3分後笑いながら出てきた。

 

次は、智君。

控え室にいる私に微笑みかけてからベッドルームに入って、5分後神妙な様子で出てきた。

店へ戻る前にもう一度私に微笑みかけたけど、その微笑みは寂しげだった。

 

最後に、……千春さん。

私は相変わらずアウト・オブ・眼中のようで、私には一瞥もくれずにベッドルームへ。

 

3分経過…何を話してるのかな…?

5分経過…………まだ出てくる気配がない……。

ベッドルームから、とぎれとぎれだけど悲痛な声が聞こえる…。

私はそれを聞きたくなくて、耳をふさいでいた。

10分後…バタンとドアが開き、千春さんが涙をぽろぽろ流しながら出てきた。

千春さんは洗面所に駆け込み、涙を拭いて顔を整えてから店へ戻っていった。

 

そして、海流さんがベッドルームから出てきて、同時に悠馬さんが店から入ってくる。

「…行くか、海流。」

「……ああ…そうだな。…月子、そっちの小さいカバン車に運んでくれるか?」

「…あ…うん…。」

私は言われた通り、カバンを持って二人と共に外へ出る。

 

 

―――バタン―――――

トランクが閉まる。

「よし。忘れ物無いな?」

「足りないものは、向こうで買うさ。」

「そうだな。…まぁ忘れ物があっても送ればいいしな。

 …海流、俺先に乗っとくな。」

悠馬さんは私を見て微笑み、そう言って運転席へ向かう。

「ああ。」

―――バタン―――

 

「…じゃ、行ってくるな…月子。」

「………うん……。」

「さぼんなよ、『宿題』。」

「うん、分かってる。…海流さんじゃあるまいし手抜いたりしないよ〜だ!」

「ははっ、言ったな!じゃあ向こうから、もっと厳しい『宿題』送ってやるよ♪」

「ぅ…お手柔らかに……。」

「ははははっ、おいおいさっきの威勢はどうしたんだ。」

海流さんが、楽しそうに笑う。

 

…………だめだ、だめだよ…笑って送り出すんだから………泣いちゃダメだ…。

…………言っちゃダメ、そんな権利……私には…ない…。

 

「じゃあ、行く…な。」

「……うん、いってらっしゃい!」

思いっきり、出せる限りの力で…笑顔を作る。

「ああ、行ってきます。」

そんな私を見て、海流さんはまたいつものように優しく微笑んで…

助手席に乗りこんだ。

 

あ……あ…………かみ…さま…神さま…神さま、神さま神さま神さま…!

…あと5分…いいえ、3分でいい…笑顔でいられるだけの、力をください…。

………耐え抜くだけの力をください……。

 

 

―――キュルル、ブルン―――

車のエンジンがかかる。

……あと少し…、あと…少し……。

もう少しだけだから……

…頑張れ、頑張らなきゃ……!

 

「じゃあまた…な、月子。」

――――ブロロロ…―――――

車がゆっくりと走り出す。

 

………。

…い…やだ………………………。 

 

―ダメだよ、あと一分だから我慢して―

 

………行か…な…いで…………………。

 

―ダメだよ、今まで我慢してきたじゃない―

 

嫌だ…嫌だよ、行かないで…行かないで…。

 

――――― ダ メ ―――――――

 

………嫌だ……嫌だ…嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ…!!

行かないで、行かないで…お願い…行かないで行かないで行かないで!!!

 

 

「海…流さ…ん……!!!」

気付けば、体は勝手に車を追っていた。

「…い…や………かな…いで。」

他のことなど考えられなかった…ただひたすらに走った。

 

―― キキーーーッ ―――

車が止まる。

 

――バタンッ―――

ドアが開いて、大好きな人が私の方へ走ってくる。

「月子!!!」

「か…るさ…。」

「お前、何やって…」

「い…やだ…。いやだ…よ…」

「月…」

「行かないで…行かないで…行かないでっ…。お願い…行かないで…。

 お願いだから……。」

感情の爆発。海流さんにしがみつき…ただひたすら、泣きながら同じ言葉を繰り返す。

「月子…」

「海流さん…いやだ…いや…。…行っちゃ…やだよ…。

 お願い……行かないで……。………そばに…いて…。」

 

「月子…。」

背中に、海流さんの腕が伸び、そっと温もりが伝わる…。

海流さんが、私を優しく抱きしめたのだ。そして…

 

―――。

 

額に、優しく海流さんの唇がおりた。

 

「…帰ってくるから。」

「海流さ…」

「俺は絶対帰ってくるから……だから…泣くな。」

「あ……わた…し…」

私はその時やっと自分がしたことに…してしまったことに気付いた。

「私……私……引き止めるつもりじゃ……」

「分かってる…。」

「ごめんなさい…ごめんなさいっ……ごめ…なさ…い…。」

「謝ることじゃない。…我慢してたんだろ?俺が気にすると思って…」

海流さんは優しく微笑んだ。

「…ありがとう…月子。……ごめんな。」

「ちが……か…さんが…そ…なこ…言う…必要な…いっ…!」

声が上手く出せなくて…もどかしい気持ちになる。

「これ…受け取ってくれ…。」

渡されたのは、一枚のディスク。

「俺は、帰ってくるから…連絡もするから…。」

「…うん。」

「だから、泣くな…。」

「……うん。」

「はじめに教えたこと…覚えてるか?」

「……姿勢と、……表情。」

「表情に関する、俺の教えは…?」

「……ちゃんと覚えてるよ…。」

「…できるな?」

「うん…。」

「…さすが俺の一番弟子だ。」

海流さんが、ぽんぽんと私の頭を撫でる。

 

「海流。」

悠馬さんが、車から声をかける。

「ああ、悪い悠馬。……月子…行ってもいいか?」

…厳しくて…優しい優しい人…私の許可なんて必要ないのに…。

「…当たり前だよ。変なこと言って、ごめんなさい…。」

私の言葉を聞いて、海流さんはとびきりの微笑みを見せて車へ戻る。

 

――ブロロロロ――――

車がまた走り出す。

 

貴方が…私は誰より好きです。

…自分の道を駆ける貴方が…誰よりも好きです。

 

貴方の教えを、忘れずに…必ず実行するから…。

 

 

『笑顔を忘れるな』

 

「うん……。いってらっしゃい…海流さん…。」

 

 


 

 

あの時の絶望の入り混じった痛み、痛みの中で感じた至福の幸せ…

その矛盾する二つを同時に感じたあの一瞬を…忘れることはない…。

 

今でも私にとって一番のキスは、

あの時貴方のくれたおでこへのキスなんだ…。

 

貴方が戻ってくるのなら、私は駆けるよ…あの時のように。

貴方の温もりを感じられるなら、喉が枯れるまで叫びつづけるから…。

 

 

あの時と同じものを…今も望んでる…。

……今こそ、強く願うよ…。

 

 

…そばに…いて………。

 

 

 


 

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12話!!ここで一応区切りです〜〜☆第一の(ぉ、笑)♪

ついに行ってしまいました、アメリカ。。。これからどうなっていくのやら♪ご意見ご感想くださりませv

 

 

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