Eternal Memories(追憶) -11-

 

 

海流さんが行ってしまうまであと一週間…

じりじりと近づくその日に、押しつぶされそうになる。

言ってしまいそうになる…。

……「行かないで」って…。

私は今にも口に出そうなその言葉を飲み込むのに精一杯で、

一人で部屋にいる夜は、爆発しそうな気持ちに今にも崩れ落ちそうだった。

 

 

「あ〜…後一週間か。」

関ちゃんが、そう呟いた。

海流さんはまだ店に来ていなくて、控え室にはお昼休憩中の智君、関ちゃんと私の三人がいた。

「海流さん…いきなり予定変更したりとかないかなー。」

智君が、そう答える。

ん? 関ちゃんは寂しがるの分かるけど…

海流さんにベタ惚れな千春さんを好きな智君も、海流さんに行かないで欲しいの?

そんなことを考えて、不思議そうに見つめる私に智君は微笑んで聞いた。

「俺が喜ばないのが不思議?」

「…うん。だって…チャンスでしょ?」

「確かにね。…でも、俺は海流さんも好きだから。」

「え゜っ…!?」

「違う違う!!そういう意味じゃない!!!何て声出すんだよ、月ちゃん!」

『そういう意味』にとって驚いた私に、智君が慌てて否定する。

「ははははっ、月ちゃん俺も海流さんに惚れてんだけど♪」

智君と私のやりとりを聞いていた関ちゃんが爆笑しながら言う。

「もちろん、『そういう意味』じゃないけどね。

 悠馬さんにも海流さんにも、惚れてる。

 多分、智や俺だけじゃない…あの人達の近くにいる男は大体そうだと思う。

 あの二人は、『男が惚れる男』ってやつなんだよ。」

「『男が惚れる男』???」

何やら妙な響きに感じるんですけど…。

「つまり、『憧れ』ってこと…いや、『理想』かな?」

「そういうこと。関さんうまく説明してくれてサンキュ。」

ああ、憧れか!…びっくりした〜。

「うん、それならなんとなく分かる。」

私も…、嫌われてるけど…情熱的で、凛として、大人な千春さんにはやっぱり憧れるもん。

仲良くしたいって思った気持ちは嘘じゃない。…今じゃ叶わない夢だけど…。

「だから、正直言って寂しい気持ちの方が強いんだよなー…。

 って、これじゃ負けを認めてるようなもんか。」

「ばーか。お前が海流さんに勝つなんて百年早ええよ。」

苦笑いしながら智君が言った言葉に、関ちゃんが笑いながら返した。

二人のそんな姿がすごく温かくて、私も一緒に笑いあった。

その時、

――バタン―――

「よぉ、何を笑ってんだ?」

海流さんが裏口から入ってきた。

「うわっ、海流さん!!」

「何だ、智…そんなに驚いて。俺の悪口でも言ってたのか?」

「どうも、海流さん!実験してたんすよ。『噂をすれば…』ってことわざは本当かどうか♪

 本当みたいっすねー♪じゃ、俺店に戻るんで。」

「お、俺も。」

関ちゃんは余裕を見せながら…智君は慌てて店に帰っていく。

「…で、俺の何の話をしてたんだ?月子。」

うっ…二人とも私に後始末押し付けて逃げたなぁ……。

私は慌ててとりつくろうとする…ぅぅぅ、二人とも覚えてろよぉ!

…だけど、そんな風にあたふたしてる時も…考えることは、ただ一つ……

 

いつまでも、この時が続けばいいのに…。

 

言葉に出せない「行かないで」という想い、願いに…胸が締め付けられる…。

 

 


 

そして、ついに30日がきてしまった。

私の家は結構厳しいので、夜に出かけるなんて許してはくれない。

なので、今日は真湖の家に泊まりに行くということにした…ってディナーの後本当に泊まりに行くんだけど。

 

「こんにちはー…ちょっと遅れましたー…。」

店に入ると、海流さんと悠馬さん、そして関ちゃんがいた。

どうやらパーティはもう終わった様子…どんなのだったのかな。

「10分遅刻。5分前行動はどうした?」

海流さんはすでにスーツ姿で…タイをゆるく締め、シャツのボタンをはずして着崩し、

壁にもたれてくすくす微笑む姿はまるでドラマか映画のようだった。

ぅぅぅ…フォーマルも似合うなんて反則だよぅ…

私が、こんな海流さんの横に並んだら月とすっぽんじゃないか〜…

「何を固まってんだ。ほら、ベッドルームで着替えて来い。」

ぽんっと洋服を渡され、ベッドルームに突っ込まれる。

「じゃ、着替え終わったらヘアメイクとメイクするから、早くしろよ。」

そう言って、海流さんは出て行った。

ベージュに薄い桃色の大きめの花がデザインされ、オーガンジーで包まれたそのドレスは、

文句なしに可愛くて綺麗で…。こんなものどこから調達したのかな。

どきどき。似合うといいけど…。

 

「着替えました〜…」

緊張しながらおそるおそるベッドルームからでる。

三人がこっちを向き、じーーーーーっと見つめる…。

ぅ…やっぱり似合わないかな…。

「…似合うじゃん。馬子にも衣装だな♪」

海流さんが言う。馬子にも衣装って…そうだけどさ…。

「ほら、こっち来い。悠馬が髪型作ってくれるから。」

店の椅子に座らされ、悠馬さんが私の髪をアップにしていく。

美容師が友達っていいよね…真湖、美容師になるんだっけ。

そうこうしているうちに髪型は完成。

流石悠馬さん…何て綺麗で可愛い髪型…すごいや。

「お次はメイクだな。海流交代♪」

「おう。月子、目瞑れ…動くなよ?」

こんないい男達…『男が惚れる男』達に色々してもらって…なんか私、逆ハレム…?

 

「できたぞ。っと、最後にこれ…。」

シュッと液体がふきだされる音がして、甘い香りが漂う。

「うわ、いい香り…香水?」

「そう、“ベビードール”お前にやるよ。学校には付けてくなよ。」

「ありが…と……。……………。…これ………誰?」

香水を渡された後、初めて鏡で自分の姿を見た私は驚いて聞く。

鏡に映った自分は少し大人っぽくて、目鼻だちもいつもよりはっきりして別人みたいで、

二人のテクニシャン(?)の腕を改めて実感する。

「お前だよ。じゃ、行くか。」

海流さんは笑いながら答えて、タイをしめた。

「う、うん。」

 

 


 

 

料理は、すごく美味しかった…。しかし厳しかった…。

車から降りる時も、店に入るときも、海流さんは完璧なレディーファーストで、

慣れた様子でメニューを眺め、料理に付け加え、食前酒までてきぱきと決めていった。

シャンパンで乾杯をし、食事……もとい、レッスンスタート。

それはもう…細かい、そして厳しい…。

何度かフルコースを食べたことがあり、基本的なマナーを知っていたことがせめてもの救い…。

しかしこのヒギンズは基本だけで許してはくれない…。

子供の頃は関係なかったこと(お酒とか煙草とか)から、パンの置く場所、

最後に帰るときナフキンはたたまないとか…右手はできるだけいつも相手に見える場所にとか…

みっちり教え込まれる…。

本当にロマンの欠片も何もあったもんじゃない!

しかし…こんな完璧なマナー…海流さんはどうやって身につけたんだろ??

…うーん…また謎が増えた…。

 

 

帰り道、真湖に電話する。

『はい。』

「真湖?今から行くね。」

『あー、分かった。うちの家の前に来たら電話してな。』

「うん。」

『海流さんの車で来るんやろ?うち海流さんと会うちゃうん?』

「え?…海流さん、真湖に会ってく?」

「いや…やめとくよ。悠馬が待ってるんでね。俺はお前下ろしたらすぐ戻るよ。」

「そう…。」

「それに、噂の真湖ちゃんが俺に会ったら99.9%惚れるだろうしな♪」

くすくす笑いながら海流さんは冗談交じりにそう言い放つ。

「もう、何言ってんの。

 真湖?海流さん用があるってさ。

 …何か真湖海流さんに会ったら99.9%惚れちゃうらしいよ?」

『あはは、ふーーーん、あーそうですか♪

 じゃぁやめとくわ、惚れたら困るし?♪じゃ後でな。』

「うん、後で。」

―――ピッ―――――

横を向くと海流さんが微笑みながらこっちを見ていた。

あ…まただ、また…どきどきする…。

海流さんの微笑みって、悲しくなるのとどきどきするの…二つあるんだよね…。

「余所見運転。」

照れて、赤くなった顔を見られたくなくて…そう言った。

「はいはい。」

海流さんのくすくす笑い…明日にはもう、聞けなくなる心地いい笑い方…。

 


 

車が真湖の家の近くに着く。

「じゃ、明日…な。」

「うん…今日はありがとう。あ・この服…。」

「やるよ、俺が持ってても仕方ないしな。」

「え…こんなの貰えないよ…。高いんじゃ…」

「子供がそんなこと気にするな、10万20万するものじゃないしな。

 じゃあ、真湖ちゃんによろしくな♪」

子供と言う言葉に、胸が苦しくなる…。

やっぱり私は海流さんの目には子供にしか見えないのかな…?

当たり前なんだけど…………悲しいよ…。

「…月子?どうかしたか?」

「あ…ううん。…ありがとう、海流さん…すごく楽しかった。」

海流さんはいつものように優しく微笑んで、車を走らせ帰っていった。

 

私は自販機で“梅ッシュ”を二つ買い(「お酒は20歳になってから」だけど)、

真湖の家に急ぐ。

 

「うわっ!月子かっわい〜〜〜。しかもメイクうまっっっっっ!!髪もばり可愛いし!!」

私を見た真湖の第一声だった。

「海流さんと悠馬さんのお膳立てだよ。それよりちょっと付き合って。」

「あんた…酒なんて飲んで大丈夫か?」

「まぎらわせたいの。」

そう、海流さんと過ごすときがあまりにも楽しくて…幸せで……一瞬忘れてた。

 

………明日お別れなんだ………。

 

明日、もうあの声を直に聞けなくなるんだ…

もう、あの微笑みを見れなくなるんだ…

「お月さ〜ん♪」って言って、頬を掴まれることも…ぽんぽんって頭を撫でられることも…

 

明日には…もう……。

 

「つらいなー…。…なんて、言っても仕方ないけど。」

「うん、そうやな…。」

相槌を打つだけで、下手な慰めも…同情もせず…何も言わない…

そんな真湖に感謝した。そんな真湖だから、私は素直になれた…。

結局お酒は半分も飲めなくて、真湖の家の前を流れる川に流してしまった。

 

 

「今日」がずっと続けばいいのに………

そんなことを考えてしまう………バカだね、私……。

明日……ひきとめちゃ、だめなんだよね…。……頑張らなきゃ………。

 

「真湖。」

「ん?」

「明日、いい天気かな…?」

「…………うん……。」

 

このまま……明日が…来なければいいのに…。

私の願いとは裏腹に…静寂の中、かちかちかちかちと時計が音を刻む音が響いていた。

 

 


 

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11話〜☆香水めっちゃ大好きっvv “ベビードール”は甘甘ですね〜☆

ちなみに私が今愛用してるのは“レベル・ド・リッチ2”(聞いてないから)これも甘い☆

未成年者の飲酒は犯罪です(笑)先まだ長いなぁ…皆様お見捨てにならないで〜(><)

 

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