Staunch Friends(約束) -1-

 

 

10年…

 

書くと3文字、読むと5語、漢字で書くと8画…

 

でもその年月を歩もうとすると長く、思い返す思い出はあまりにも多い…。

 

 

まだ27だってのに、昔のことを思い返すはめになるなんてな。

…勘弁してくれよ。

 

こーら、笑うな。お前のせいだぞ。

…本当にいつまでもお前は食えない奴だよな。

 

 


 

 

昔から洞察力が鋭かった。

物心つく頃には、もう余計なものまで見えてしまってた…

中学の頃には人の行動や言葉の意味するものがすぐに分かってしまってた…

…相手が大人であってさえ。

どういう経緯でそうなったかとか、何故そうなのかとか、

それは俺自身にも分からないけど…

気付かなくていいことまで分かってしまう、このやっかいな性分を飼いならすのに

かなりてこずったことは今でもはっきり覚えている。

 

お前との出会いは、ようやくこの性分の扱い方に慣れてきた頃だったな。

 

 


 

 

高校生になって1ヶ月…。

つるむ友達もでき、好きな時にだけいけばいいという自由な美術部にも入り、

ようやく今までと違う環境に慣れてきた。

俺の通う高校は県下でも有数の進学校で、

みんな中学じゃトップとってたようなやつばっかりだったけど、真面目君ばっかりってわけでもない。

ヤンキーもいれば、ミーハーな女子生徒も結構いる。

だから当然目立つ奴は噂されたりもする。

 

そんな中、入って一週間くらいするかしないかで噂になり、

入学したばかりなのに学年のみならず学校中に名が知れ渡って、

‘学年の顔’とまで言われる奴がいた。

 

 

――『三崎 海流(かいる)』

毎日必ず一回はこいつの名前が耳にはいる。

 

入学して最初の週で名前を覚え、実際にそいつを見たのはその1週間くらいあとだった。

はじめてみた時はただただ納得した。

なるほど、あれなら噂にもなるな…。女子が騒ぐはずだ。

『三崎海流』は想像以上に整った綺麗な顔立ちをしていて、背も高く、スタイルもよく、

なにより人を惹きつけるような雰囲気があり、そこだけ空間を切り取ったかのように目立っていた。

人望もあるらしく、周りをとりまくダチも多かった。

…ま、俺には関係ないな。1組と8組だし。

 

そんな風に思っていた。

 

 

5月の半ばの昼休み、その‘有名人’がうちの教室に来た。

「達也〜!わり、生物の図説持ってたら貸してくれ。」

いきなりの三崎の来訪に女子が騒ぐ。

「おう、海流。ちょっと探すから入って待ってろよ。」

三崎の声に答えたのは俺がつるんでるやつらの一人、達也だった。

「達也、三崎と知り合いだったのか?」

「中学時代のダチ?」

みんなが達也に質問しだす。

「そう、ちなみに小学校も一緒♪」

…机を探る達也の変わりに答えたのは教室に入ってきた三崎本人だった。

「まじ?どこの中学だったんだっけ?」

「小学校からとか付き合い長いな〜。」

…お決まりの流れの会話。そして…互いの名前を教えあう。

一人ずつ名前を言い、最後に三崎は俺に聞いた。

「お前は?」

「…羽賀 悠馬(ゆうま)」

「よろしくな、羽賀。」

三崎はにっと微笑む。

………?…なんか、妙な感じだな。

そんなことを考えていると達也が机を探るのを止め、三崎の前に手を合わせて立った。

「わりい、海流。家に置いてきたっぽい…。」

「まじ?そっかサンキュ。」

「あ、ちょっと待て。悠馬、持ってたら貸してやってくれないか?」

「ああ、別にいいよ。」

「サンキュ♪じゃ、あとで返しに来るな!」

そうして俺は関係ないと思っていた‘有名人’と知り合ったのだった。

 

 

それから俺と三崎は会うとたまに話をするようになった。

三崎との会話は楽しめた。

三崎は頭の回転が速く、知識も豊富で、会話のテンポも絶妙で相手を飽きさせない。

だからと言って、まだ良く知らない相手に対して深くまで踏み込ませず、

その距離のとり方、質問のかわし方も上手く、

話していると心地よさを感じさせる雰囲気を持っていた。

三崎は運動神経もよく、成績もトップクラスで、

だからといっていい子ちゃんづらせず、仲間とふざけたりもして…

クールだけど人当たりもよく、やたらと顔がひろくて、自然とみんなの目を惹きつけた。

俺を含む周りのみんなのあいつに対する印象は「もててて完璧な奴」で、

この学校にいて知らない奴はいない位になっており、

日が経つごとに‘学年の顔’を名実共に確かなものにしていっていた。

 

 

10ヶ月が経った…

この10ヶ月間たまに会う三崎は良く笑ったり微笑んだりで、

俺はあいつの不機嫌そうな顔は見たことがない。

クラスも離れてたし、たまに話す程度のつきあいだったからっていうのもあるけど…。

だけど俺は三崎の微笑みをみるとたまに妙な感じを覚えていた。

 

周りの奴等は誰も気付いてないみたいだけど…

あいつ…もしかして…。

 

 

 

 

そして、二年生になり…

何の因果か俺とあいつは同じクラスになった。

達也も含めて、7人程度でつるんでいた。

大分距離が近づき、話す量も桁違いに増え…一緒にいる時間も長くなった。

そしてつるむようになって1週間、妙な違和感の原因にはっきり気付いた。

 

やっぱり…か。何か妙だと思ったんだ。

確信をもったのは、三崎を尋ねてきた他のクラスの奴と話してるとき…。

いつも通りの笑顔…‘キレイ’な微笑みを見たときだった。

 

こいつ……笑ってない…。

合わせる為に作ってるだけだ…。

 

しかも、それにかなり慣れてる…

そういうことに人一倍鋭い俺がすぐに気付けなかったんだから相当だろう。

 

しっかし…どうすれば15・6であんなほぼ完璧な作り笑顔を身につけられるんだ?

 

 

 

一度気付いてしまえば、本当の笑顔かそれとも作ったものなのか見抜くのは容易い。

作り笑顔といっても別にみんなを騙す為というのではないだろう。

三崎は、聡明だが狡猾じゃない。

たぶん、必要以上に踏み込ませないためだ…。

三崎は、ものの見事に‘自分’を掴ませなかった。

何とか懐に入ろうとする奴等を、その笑みで、絶妙の会話術で…上手くかわしていた。

…それは大の大人と比べてもひけはとらないほどだった。

かわされた奴はおそらくかわされていると気付いてもいないだろう。

見事としか言いようのない、完璧な処世術…高校生が習得できるようなもんじゃない。

末恐ろしい奴…。一体どこで身につけたんだか。

 

みんな三崎のことを知っていて、

だけど誰も『ホントの三崎海流』を知らない…。

そこに興味を持った。

本当の三崎を見てみたいと思った。

自分からあまり人に深く踏み込もうとしない俺には珍しい興味と思考…。

…よし、ちょっとやってみるか。

 

 

 

俺は三崎を少し避けるようにした。…といっても、あからさまにではなく、

あくまで三崎にしか分からない程度に…。

あいつが“偽の微笑み”を出すたびに、刹那、さめた視線を送る。本当にかすかに、だけど。

でも、三崎なら気付くだろう。気付かなければそれまでの話だしな。

‘キレイに’作った笑顔振り撒くなんて、好きじゃない。

特に損得の関係もない学生のうちは、ありのままでいるのが一番だと思う。

スキのないこいつにスキを作らせる…ある意味挑戦ともとれる行動だった。

そんなことを3日ほど続けていたある日の放課後のこと…。

 

 

俺はいつも通り美術室で一人で絵を描いていた。そこに三崎が人を探しに来た。

「おっ悠馬、中山知らないか?…あ、悪い…達也の呼び方がうつっちまったな。」

「別に謝らなくてもいい。『悠馬』が呼びやすきゃそっちでいいよ。」

中山というのは同じクラスの女子で、美術部の子だった。

そんなに派手でもなく目立つ子ではないが、磨けば光るタイプの可愛い子で、

図書委員をしていた彼女は一年の時から同じクラスで図書館・借り専門常連の三崎とは

なかなか仲もよかった。…周りの女子がずいぶんうらやましがってたな、確か…。

「今日は来てないけど…多分もうちょっとしたら来るんじゃないか?

 最近展覧会用にそこの絵描きに毎日来てるみたいだし…。」

「そうか、展覧会か。お前も出すの?」

「いや…俺のは単なる趣味だから外に出す気はないよ。自己満足ってやつだ。」

「ふーん…。」

片手に分厚い本を持った三崎が俺のほうへ近づいてきて、俺の描いてる絵をのぞく。

「もったいないな、こんなに上手いのに…。」

「そりゃどうも。…三崎は絵は描かないのか?」

「『海流』でいい。絵ねぇ…スケッチや風景画なら書くけど…。」

「描いてみるか?中山がくるまで…。そこに紙あるぞ。」

「………いや…やめとくよ。」

「そうか。」

「悠馬、お前さ…」

俺は、パレットに絵の具を追加しながら返事をする。

「んー?」

 

「俺に何か言いたいこと、あるんだろ?」

 

「!」

……予想しなかった三崎…いや、海流の台詞に驚いた。が、すぐにその驚きを諌めた。

「…何で、そう思う?」

俺は微笑みながら聞いた。

「ばっくれんなよ。

 視線、わざとだろ?…何か言いたいことがあるとしか思えない。」

まいったな…気付くにしても1週間くらいしてからだとふんでたんだが…思ってた以上に鋭いな…。

「俺に何か文句でもあるのか?」

少し、威圧するような声で海流が聞く。…どうやら修羅場にも慣れてるらしい…。

だが、あいにく俺もそれくらいでひるむような可愛い奴じゃない。

「別に…ただ聞きたいことがあるだけさ。」

余裕をもったような笑みで、俺は言った。

「…何だ?」

「……楽しくもないのに周りに合わせて笑顔作って…面白いか?」

「…な…っ!」

海流はひどく驚いた目で俺を見る。俺はそんな海流にはお構いなしに言葉を続けた。

「俺はそういうのは好きじゃない。」

「……どういう意味だ…?」

「そういう意味、だよ。」

「何言っ…」

ぱたぱたと、こっちへ近づく足音がする。

「中山が来たぞ。」

俺が言うと同時にドアから中山が入ってきた。

「あれ…?三崎く…ん?」

中山は普段は美術室で見ることのない海流の姿に驚いた顔を見せる。

「おう、中山。み…いや、海流がお前に用があるってさ。」

「悠…っ…」

「そうなの?何、三崎君?」

「………ああ、一年の図書委員がお前呼んでるんだ。」

「そうなんだ。行かなきゃ。三崎君も図書館いくの?」

「…ああ、行くよ…。この本返しに。」

海流が持っていた本を上に上げた。

「じゃまた明日な、海流。」

俺はニッコリ微笑んでそう言った。

「……ああ。じゃあな。」

海流の顔からいつもの笑みが消え、警戒心と不信感が見える。

そして二人は美術室から出て行った。

 

海流の顔から微笑みが消えた。

…少しだけだが、初めて『ホントの三崎海流』が見えた瞬間だった…。

 

悪いけど、俺はそんな作り物でかわされてなんかやらない。

作り物を向けられるなら笑わない顔を向けられる方がずっといい。

 

…本当のお前を見せてみろよ。

 

 

 


 

 

俺がお前に興味を持ったのは、

見えなくていいことまでみてしまうこの無駄に鋭すぎる洞察力のせいだったな。

お前が自分を隠してるってことに気付いてしまったから、分かってしまったから、

お前があまりに巧みに…完璧に自分を隠すから…

どうしてもお前がうまく隠してる‘お前’をみてみたくなったんだ。

だかららしくもなくあんな挑むようなこと言ってしまったのさ。

 

人が悪いだって?

……よく言うよ。

誰に言われてもお前にだけは言われたくないね♪

 

 

 


 

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「Staunch Friend」 第一話〜v 友情話です。

「Eternal Memories」で御馴染み、海流さんと悠馬さんのお話で〜す☆今回は「出会い」。

ちなみに「Eternal」とリンクしてます♪ご意見・ご感想くださ〜いv

 

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