Staunch Friends(約束) -2-
周りはお前を見て…憧れ、慕い、魅了され…そしてこう思っていた。
「三崎海流は非の打ち所がない」
「何でも上手くこなす、完璧な奴だ」
…お前は何度そんな風に言われてきただろう。
そしてどんな思いでそれを聞いていたのか。
それが少しだけ分かり始めた頃、俺はこの性分に感謝できるようになったよ。
その後二週間、俺たちは何事もなかったかのように話し、笑いあった。
ただし、みんなの前でだけ…。
美術室での一件の次の日、
『いつも通りの』笑顔で俺に「おはよう」と言った海流には、素直に驚いた。
そして素直に「すごい奴だ」感服した。
海流は周りを気まずい雰囲気にしないように、見事に平然を装った。
…本当に同い年か?
しかしそれに飲まれていたらあんな挑戦めいたこと言った意味がない。
俺も“完璧な作り笑顔”で「おはよう」と返した。
俺たち二人のせいで周りの人間に気まずさを感じさせるなんてまねをするほど、
俺も、間抜けじゃない。
だが二人になると、あいつは笑みを顔から完全に消していた。
しかしみんなといる時は、海流が笑顔を作る瞬間に俺がどれほどさめた視線を送っても、
あいつはスキを見せなかった。
…流石に、手ごわい。
だけどこのまま流させはしない、そう思っていた。
放課後4時過ぎ、
筆の走りが悪かったので、部活を早めに切り上げて忘れ物をとりに教室へ向かった。
夕焼けであかく染まる廊下を歩き、馴染みの教室につく。
教室のドアを開けると誰もいないはずのそこに、一つの影があった。
窓辺で分厚い本を読んでいる海流だった。
……夕焼けが似合う男……何か腹立つのは俺だけか?
「…悠馬。」
「悪い、読書の邪魔したな。」
「いや…。」
俺が自分の机に向かうと、海流は本をパタンと閉じて立ち上がった。
机を探る俺をしりめに、海流はそのままドアに向かう。
「本を読んでたんだろ?そのままいれば?」
俺は海流の方を一切見ずにそう言った。
その言葉で、海流の足が止まる。
「お、あった。ほら、何止まってんだ?入れよ。」
「……。」
不信感一杯の目で、海流は俺を見る。
「入れって。…本の続きを読むんだろ?それとも話でもするか?」
俺が微笑んでそう言うと、海流は
「……俺が嫌いなんじゃなかったか?」
と聞いてきた。
…さて、どう返すかな…。
海流は冷めた目でこっちを見つづけている。
「…別に?そうやって俺といる時の作り笑顔してないお前はキライじゃない。」
少しの沈黙。
そして海流の目から不信感が消え、変わりに驚きが見えた。
しかしその驚きの表情はすぐに消え、次に見えたのは偽りのない笑み。
俺もそれに笑顔で返す。
「…変な奴。」
海流はそう言ってふっと不敵に笑って外へ向かっていた足をこちらへ向けた。
それから1時間くらい話した。
海流はあいかわらず絶妙なテンポで話すので、人を飽きさせない。
そして、少し間があいた瞬間にこんなことを聞いてきた。
「…なんで、あんなこと言ったんだ?」
「あんなこと?」
「…『……楽しくもないのに周りに合わせて笑顔作って…面白いか?』」
「ああ。知りたいか?」
「知りたいね。」
「…じゃあ、言わねー。」
「…は?」
「天下の三崎海流が知りたがってることを、この俺が簡単に言うかよ♪」
「てめー…。」
「自分で考えてみな〜♪」
「ふざけてんじゃねー!」
ふざけあい、笑いあう。
二人して‘16歳の子供みたいなことをした’。
心地いい空間だった。
この時初めて『海流』は、俺に気を許し、俺も『海流』に気を許した…。
「ところで、何読んでたんだ?」
「ん?…ああ、これか?」
海流は持っていた分厚い本を俺の机の上に置く。
………なんだ、こりゃ…?
「……『法哲学概論の基礎的研究』??」
「ああ。」
……図書館でこういう装丁の本の並び見る度に「一体こんなもん誰が読むんだ?」って思ってたけど…
…………ん?待てよ…。
「…お前、法学系に進むんだっけ?」
確か海流は理系じゃなかったか?
「いや?理学。」
「………理学部?」
「ああ、分子生物学をやりたいと思ってる♪」
「…………。」
…分子生物学やる人間がこんなもん読む必要あるのか?
「…法学が好きなのか?」
「いや、別に?」
「じゃあなんでこんな肩のこりそうな本読んでるんだよ!?」
遊び盛りの高2の男が手にとる本じゃないだろうがっ!!
「…分からないことがあって、世の中に振り回されるのが嫌なだけだ。」
……は?
「図書館見ても分かるだろ?…高校の図書館でさえ、あれだけの本がある。
卒業までに全部読むのは不可能だし、そんなことしようとも思わない。
世の中にはもっと多くの知識があって、一生を費やしても学びきれない。
…これから生きていく中で知識はどんどん増えていくだろうけど、
その半面で知らないことも山ほど増えていく。
知らないことを他人に教えられるとそれをそのまま吸収にしてしまうことになる。」
「まぁ、そうだろうな。」
「だから、俺は出来るだけ多くを知りたい。
自分で感じ、考えられるように。…世の中に振り回されないように。」
………まったく…何て奴だ…。すごい、という言葉しか浮かばなかった。
だがそんなことをこいつの前で口に出すのは癪なので、俺は軽口を叩く。
「…究極の我儘コゾーだな。」
「ははっ、その通り♪」
海流はくすくすと笑う。
教室に響くその声が心地よかった。
その日から、海流は読書の場所を変えた。
教室から、美術室へ。
俺もよく図書館に付き合うようになった。
海流の借りる本はジャンルに飛んでいて、…特に立派な装丁のものが多かった。
そういう本の貸し出しカードに書かれた名前は大抵海流のみか、書いていても一人二人だった。
…まぁ、そうだろうな。
俺たちはどんどん親しくなり、互いのことを知っていった。
非の打ち所なしと称された海流のことを知っていく過程で一つ思ったことがある…。
絵がド下手…“完璧”ねぇ…。
「…おい…悠馬…。」
スケッチや、風景画はものすごくうまい…。
まさしくそのままの姿を描くことができるし、多分俺より上手いだろう。
だが、この幻想画…想像画…そしてちょっと書くイラストの下手さはどうだ!?
「…うるせー。」
下手い…下手すぎる…!!小学生も驚く下手さだ…。
「おい、こら悠馬!!うるせーんだよ!!!」
…何が?
「下手下手言い過ぎだって言ってるんだよ!」
……言われたくなきゃ描くなよ。
「お前が描いてみろっていったんだろうが!」
いつから心まで読めるようになったんだ?
「しらじらしく言うな!わざと声に出して言ってるだろ、お前。」
「声に出して言ってこそだろ?」
「……字のド下手なお前に言われたくないぞ。」
ぐっ…。
「………。…お前が達筆すぎるんだ…。」
「ばーか、お前が下手すぎるんだよ。」
「…お前等、仲良いなー。」
呟いたのは、達也。
「あ・そういえば!海流、お前ひなと別れたって?」
「…ああ。」
海流は中3の夏からずっと同じ中学の可愛い女子とつきあっていたが…
教室で話した日から一週間後、何を思ったのか急に別れた。
「…そうか。お前等似合ってたのにな。好きな女でもできたのか?」
「…さあね♪」
海流は‘キレイに’微笑んで答えた。
……相変わらず食えない奴。
「なんだよその返事〜、教えろー。」
まわりのダチがつっこんでくる。
「お、中山!これ返しといて。」
「逃げんな海流〜!」
…本当にかわすのが上手いな。
「中山お前髪伸ばしたら?きっと似合うぞ。」
……口も上手い。
俺はダチ達のそんなやりとりを見てくすっと笑った。
人は誰だって、愛想笑いしたり他人に合わせたりするけど…。
お前のはそんなものと違う。
嫌なことがあっても上手く笑えるお前は、気付く者がいなければいつか壊れてしまう。
そしてお前の演技は完璧すぎて、それに気付く者を作らせなかった。
…だけど完璧な演技はできても、
完璧な人間なんて、どこにもいない。
そんなこと…お前が一番良く分かってるよな。
Staunch〜、第2話です♪ …こんな高校生やだーーーー(T0T)ぉぃ。
ところで‘16の子供みたいなことした’って何の映画の引用か分かります?v(分かるか!笑)
ホントは‘15の子供みたいなことした’なんですが…(^^;)
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