Eternal Memories(追憶) -15-

 

 

ねぇ、見える?

 

私の耳で光ってるもの…

貴方のくれた白い希望の宝石(いし)。

私の耳が貴方のものだって証…。

 

 

…ねぇ、見える…?

 

……どれほど問い掛けても返事はない。

貴方の声が聞こえない…。

 

この耳は、貴方の声を聞くためにあるのに……。

 

 


 

 

新学期が始まった。

私は学校に予備校にと、あわただしい毎日を過ごしていた。

だけどどんなに忙しくても金曜には必ず店に行った。

海流さんの声を聞くために…。

店のみんなとはもうすっかり仲間のようで、

特に……千春さんとは今や大の仲良し!

千春さんはまるで妹のようにすごく可愛がってくれている。

智君とのお付き合いも好調のようで、智君は千春さんにめろめろ!はまりまくっている。

千春さんは「はいはい」と流しつつも、まんざらではなさそうだ。

 

そんなほのぼのとした雰囲気で日々を過ごす中、

9月半ばに、驚くことが起こった。

 

アメリカで戦争の危機…。

 

次の日は月曜日…みんな休みにも関わらず店に来て、ただただ愕然とTVを見ていた。

私も放課後学校が終わってすぐ店に行った。

「海流さん…大丈夫かな?」

「戦争になっちゃ勉強どころじゃないよな。一度戻ってきた方がいいんじゃ…」

智君の呟きに関ちゃんがそう答えた。

千春さんはすごくすごく心配そうに画面をじっと見ていた。

「…今、4時か?…向こうは夜だな。いるか分からないけど電話してみるか。」

悠馬さんの言葉にみんなが同意する。

 

みんな受話器を持つ悠馬さんを見ている。

「…海流?」

――!繋がった…。

「ああ、そうだ。ちょっと待てよ、みんなに聞こえるようにオンフックにする。」

悠馬さんが電話機をいじる。

「よし、いいぞ。」

『おう。』

「「「海流さんっ?」」」

『何だ?声揃えて…俺の声忘れたか?』

くすくす笑いが部屋に響く。

「そんなわけないでしょ!…海流さん大丈夫なの?帰ってきたら?」

『ははっ、いきなり本題かよ。直球だな、千春♪

 帰国ね…教授もそうしたらどうだって言ってきたよ。』

「日本の教授すか?それともそっちの教授すか?」

『日本の。院の方にわざわざ連絡くれてな。』

「で、お前どうすんだ?」

『さあ…まだ決めてない。でも、一時帰国して様子見てみようかなとも思ってる。』

………一時帰国?……帰ってくるの…?

「海流さん帰ってくる…の?」

私は確認するように尋ねた。

『………月子? お前、予備校は?』

「夜行くよ。それより海流さん帰ってくるの?」

『……まだ分からない。でも、恩師が帰って来いって強く言ってるからな。

 そうなる可能性が高いと思う。』

「まじで!?」

「そうしたほうがいいっすよ!」

智君と関ちゃんが口々に言う。

『まぁでもこっちの教授とか研究の状況にもよるしな。…まだ分からないな。』

「お前おじさんやおばさんとは話したのか?」

『いや、後で電話するよ。今は二人とも家にいなさそうだしな。』

「そうか…詳しく決まったらすぐ連絡しろよ。」

え…もしかしてもう切るの? みんなが不思議そうな顔をする。勿論私も…。

『分かってる。』

「じゃな。」

『ああ、じゃあ…。月子、ちゃんと勉強しろよ!』

―――――ガチャッ――

「ちょ…悠馬さん切るの早いですよ!」

「ばーか、多分向こうは今こっちの想像以上に大変だ。

 きっと海流も俺らが考える以上に大変だろう。」

「…確かにそうっすね。まぁ連絡くれるって言ってたし。」

「……こっちで考えてても仕方ないってことね。」

「そういうことだ。」

 

 


 

 

その翌日、千春さんと智君が喧嘩ししたり仲直りしたり…

…そこに何故か真湖が協力したりという謎な事件があった。

そして一週間後、海流さんの一時帰国が決まった。

28日着の便で、こっちに戻ってくるらしい。

 

こんなこと……絶対に思っちゃいけない事だってわかってる…。

でも…………嬉しい。

 

嬉しい…海流さんに会えるのが……どうしようもなく嬉しい……。

不謹慎な事だって頭でちゃんとわかってる。でもそう思う心を止められない…。

なんて嫌な子なんだろう…ごめんなさい…。

嬉しいなんて思ってて…ごめんなさい…。

 

海流さんが戻る時を一時間ごとに指折り数えた。

 

 

 

そして…28日、学校のお昼休みに、私の携帯がバイブ音を鳴らす。

―――ドキン、ドキン―――――

………もしかして…もしかして……。

どきどきしながら、メールを開く。

送信者は、悠馬さん。

内容は…

 

『ただいま、月子。学校終わったら待ってるから、おいで。  海流』

 

「きゃーーーーーーー!!!」

私のいきなりの歓喜の声に、友達が驚く。

「ななな…何っ!?どうしたの月子???」

「すごく嬉しいの!」

「な、何が?」

「何もかもが♪」

みんな訳がわからないという顔で私を見ていた。

 

海流さんが…海流さんが……帰ってきた!

―――きーんこーんかーんこーん♪――――

チャイムが鳴る。

私は今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑え、席に着いた。

 

 

 

学校が終わって、大急ぎで店へ行く。

「ハアッ、ハアッ…着いた。」

裏口をあけ、急いで入る…。

もう御馴染みの風景、目をつぶっても分かる間取りの控え室。そこにいたのは…

……会いたくて会いたくて、胸が潰れそうなほど求めた人だった。

「か、海流さんっ!」

「よ!ただいま、月子。」

顔を見た瞬間胸が締め付けられて、抑えられずに駆け出し…無我夢中で海流さんに抱きつく。

「月…子…。」

「海流さんっ海流さんっ、海流さんっ!」

涙が止まらない…。

海流さんは私の頭を抱きしめ、ぽんぽんと私の頭を撫でる。

「……おかえりなさい…。」

「ああ、ただいま…。」

 

 

それから20分、30分たっても…私は海流さんにだきついたまま離れられなかった。

別に嬉しくて愛しくてとかそういう素敵な理由じゃない…もっと切実な理由だ。

 

……どうしよう…っ……涙でメイクがぐしゃぐしゃだよ…!

………見られたくない……顔が上げれない〜〜〜〜〜〜……。

離れたくても離れられない〜〜〜〜……ぅぅぅぅ。

 

「月子、もう離れろ。

 まあ…いい男にずっと抱きついていたい気持ちも分かるけどな♪」

だ…誰がっ…!ぅぅぅ…くそぅ、抗議も出来ないなんて…。

「…目つぶっといてやるから、メイク洗面所で落として来い。」

………………ばれてる…。

あいかわらず何でもお見通し、敵わないなぁ…。

 


 

それから毎日、私はまた美容院に通うようになった。

海流さんはこっちの院に通って恩師の教授の元で研究することになり、

毎日大学院に通うことになった。

実家からでは院は遠く、前に住んでたマンションも引き払っていたので(当然だけど)、

帰国中は店のベッドルームに泊まっている。

 

帰国して今日で4日目、だけど私は初日以来海流さんと話してない。

海流さんは3日続けて夜も寝ずに英語でレポートを書き続けている。

向こうでの研究のもので、出来上がり次第向こうに送るとか…。

3日も寝ずに勉強(?)できるなんてすごい…尊敬の一言に尽きる。

今日はもうできてるかな?

そんなことを考えつつ店に入る。

「こんにちは〜。」

控え室には悠馬さんがいた。

「よ、月ちゃん。…しーーー。」

悠馬さんは口に人差し指を持っていく。

「海流、レポートが終わってぶっ倒れてるんだ。」

「ええっ!?ぶっ倒れてって!?」

「しーーーー。爆睡してるだけだから、大丈夫。静かにね♪」

「…あ…うん。」

なんだ、びっくりした。寝てるだけか…。そりゃ3日も不眠なら爆睡して当然だよね。

「ちょっと、様子見てくるね。」

「…どうぞ♪」

悠馬さんはくすっと笑ってそう言った。

「ついでにソファの上の論文とってきてくれる?俺が送っとくから。」

「…うん。」

 

 

ベッドルームに入ると、

大きな白いベッドの上で、海流さんがすーすーと寝息をたてていた。

いつかと同じ光景…懐かしい既視感(デジャヴ)。

綺麗な顔…本当に、絵みたいに綺麗な光景だな…。

前に見たときは、ただ綺麗だと思っただけだった。

だけど今は…どきどきする。

この人に、ぎゅってされたい。…もっともっと…。

優しく抱きしめられて…そのまま、朝まで一緒にいたい…。

………って、あわあわ…なんて恥ずかしいこと考えちゃってるんだろう!

えーっと…えーっと、そうだ!レポート持ってかなきゃ…!

ソファの上に置いてある、英語で書かれた表紙の論文を手にとる。

ぺらぺらとめくる。…なんじゃこりゃ?全部英語で書いてあって訳分かんないや…。

…多分日本語で書いてあっても分かんないけどさ、分子生物学なんて…。

とにかく持っていかなきゃ!

ベッドルームから出る時に、もう一度振り返って海流さんの姿を見る。

…ああ、だめだ。好きで好きでたまらないや…。

……ぎゅって抱きしめられたい。

……もしも、キスできたら……“恋人”になれるかな?

…………叶わない願いかな…?

 

 

 

そしてそれから二日後…

向こうの人から海流さん宛の英文メールの中の一文を、偶然目にしてしまった。

胸を鷲づかみにされたような…耐え切れないほどの痛み…。

 

“ I sometimes remember that lovely night slept with you. ”

 

――ドクン―――

 

何て簡単な英文…受験に出たら嬉しいくらい簡単な……

いつか、英語を習得したいと思ってる。

だけど、この文の意味を理解できたこと……全然嬉しくなんてないよ……。

 

意味は分かっていても…それでも、聞かずにはいられない。

「海…流さん……これ…どういう…意味……?」

海流さんは、驚きと困惑の表情で…私の目にした文を見た。

 

「えぇっ!? 海流さん、もしかして恋人が出来たんすか?」

店に、大きな声が響く。

言ったのは、私たちと一緒に控え室にいた、休憩中の関ちゃんだった。

関ちゃんの声を聞きつけて、悠馬さんと千春さんが控え室に駆け込んでくる。

「…まじか、海流?」

「海流さん、今の関ちゃんの言葉…ほんとなの?」

みんなが口々に海流さんへ質問を投げかける。

私は考えがまとまらず、

今にも崩れそうな気持ちを押し止めるので精一杯だった…。

 

ぐるぐるまわりつづける頭に、耳に…

ぽつりぽつりと入ってくる響くような海流さんの言葉…。

恋人ができた訳じゃなく、友達の1人だった女性と一夜だけ…関係を持ったのだと…。

お酒を飲んでる時に誘われて、ほぼ無理やりの状態だったという。

 

みんなの声が、聞こえない…。

 

「すげー、海流さん、向こうでどれ位誘われたんですか?」

フロントにいるはずの智くんの声が聞こえる…。…控え室の入り口の方から…。

「……覚えてない。」

……傍で聞こえる声…どうして、この声だけは…こんなに大きく聞こえるの?

「覚え切れない位誘われたの!!??」

「それで一人はすごい!!月ちゃん褒めないと!!」

「…確かに、それはありえないなー。」

…遠くで、千春さんの声が……智くんと、関ちゃんの声がする。

 

褒める? …誰が誰を? ………どうして…?

「…月ちゃん。」

悠馬さんの、呼ぶ声が聞こえる…。

…胸が痛い…。

……ここに…いたくない…。

「…私、予備校行くね。」

駆けるように、店を出た。

 

「月子!!」

裏口を出てすぐ、後ろから追いかけてきた千春さんに両肩をつかまれる。

少しの、沈黙…。

先に口を開いたのは、私だった。

「…分かってるよ、千春さん。

 “恋人でも何でもない私に、海流さんのことをどうこう言う権利は無い”…でしょ?」

分かってる…私は、海流さんの彼女でも何でもない。

…何かを言う権利は無い。…非難なんて、する気も無い…。

「……違う。」

「え…? …じゃあ…何…?」

「……。私は、貴女が大好きよ。

 …だけど、…こんな程度で諦めたりしたら、許さない。」

…熱い…熱い…燃えるような、熱い目…

千春さんの情熱的な、美しい目…その目にじっと見据えられる。

「…許さないから…。」

確認するようにそう言った後、千春さんは店に戻っていった。

 

…‘褒める’…‘こんな程度’?

大人の人たちには、それだけのことなのかな?

…私が、子どもなだけなのかな?

……分からない……。

 

どろどろと渦巻く感情に飲み込まれそうで…苦しくて…

予備校が終わった後、唯一事情を知っている人間に電話をかけた。

――プルルルル…プツッ―――

『月子?どしたん?』

「…真湖…。」

私は事情を話した。答えが欲しくて…。

『うーん…でも、それはしゃあないんちゃう?

 だって、海流さんもおとなの男やし…それにそんなに誘われて、

 1回だけ…1人だけで…しかもほぼ無理やりなんやろ?』

「…うん。」

『それは、しゃあないって。

 つーか、あんたはまだバージンやからそう思うだけやと思う。

 そんなん、不可抗力やで。』

「……そう…なのかな…?」

『…うん、そう思う。』

私が経験が無いから、理解できないことなの?

 

………そうなのかもしれない。

でも、…違う。

頭が理解しても心がついてかない…。いやだ…。

 

これは、嫉妬だとようやく気付く。

「……真湖。」

『ん?』

「…私、決めた…。」

『え?? 何を?』

「…行ってくる。」

『は?…どこに??』

「また後で電話するから。」

『???…う、うん。』

――ピッ―――

 

大きく伸びをして、気合を入れる。

「んーーーっ………よしっ!」

向かう先は、ただ一つ…あの人のいる、美容院だけ…。

 

 


 

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15話ー☆すいません。追加しちゃいました。すいませんm(__)m

“sleep with”は英語の遠まわしな表現で、日本風に言うと「一夜を共にする」です、何解説。

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