Eternal Memories(追憶) -16-

 

 

店の裏口をあける。

そこにいたのは、店から顔を覗かせる悠馬さんと、

控え室には、珍しく煙草を吸ってる海流さん…。

「…月…子。」

海流さんは煙草の火を消して、立ち上がってこっちに向かってきた。

「…もう、来ないかと思った。」

そう言う海流さんに向かって、

 

―――ドカッ―――

 

手を握って拳を作り、みぞおちに渾身の一撃を入れる。

「…ぐ…ぅ…っ…。」

海流さんが、おなかを抱えて、倒れこむ。

悠馬さんは、こっちを見て、これ以上ないというくらい目を大きく見開いて驚いていた。

「…嫉妬してるから…。」

うずくまり、むせている海流さんに向かって、呟くようにそう言った。

 

「…私、貴方が抱いたその人に、すごく嫉妬してるから!

 ……今のうちにどんな女でも抱いてればいい…。

 その内、絶対私以外の女の人を抱く気になんてならない位、

 貴方を惚れさせてみせるから!!!」

 

そう震えながら大声で言って、言い切ったと同時に外へ出て自転車に乗った。

自転車を走らせてすぐに、店の中から悠馬さんの大きな笑い声が聞こえた。

 

 

その夜、悠馬さんから一本のメールが入った。

『まじカッコいい!俺も彼女いるのに危うく惚れかけた!やったな、月ちゃん☆』

 

 

 

そして次の日がきた…

何度思い返したろう…。昨日言ったものすごく恥ずかしい台詞。

…やっちゃったんだよね、私……。…告白、しちゃったんだよね……。

メール受信箱をあけて、昨日の夜来た悠馬さんのメールを見る。

そこで、昨日の自分の行動を確認する。

ぅぅぅぅ…今日、行きづらいな〜…。

…でも、今日行かなきゃ余計行きにくくなるしな〜…。

…行くしかないよね…。

 

 

「こ、こんにちは…。」

かなりびくびくしながら、裏口をあける。

そこにいたのは、分厚い洋書を読んでいた海流さん。

……ぅぅぅぅ…どんな顔するだろう…何て言われるかな…。

しかし海流さんの反応は予想外で、私を驚かせた。

「よ、月子♪」

にっこりと微笑みながらの挨拶。…いつも通りだった。

私は、なんだか拍子抜けして、肩の力が抜けた。

 

それから、他愛無い話をする。

「そういえば、海流さんもうちょっとで誕生日だね。10月22日でしょ?」

「ああ。…丁度月曜で店も休みだから悠馬が夜にパーティするって言ってたな。」

「そうなの?…いい仲間だね♪」

「ここの連中は関を筆頭にイベント好きだからな、騒ぎたいだけだろ。」

いつものくすくす笑い。心地いい、声…。

「海流さん何か欲しいものある?」

「…博士号。」

…無理でしょ…。

「…………。…私があげれるものにしてよ!」

「……じゃあ、最高のダイアモンド。」

「それも、無理だよ!そんなお金ないもん!!」

「ははははっ♪」

もーーーー、海流さんのバカッ!!

…だけど、よかった…いつも通り接せてる…。

 

「あ・そうだ。忘れてた♪」

海流さんが、思いついたように呟く。

「え? な…」

に?といい終わる前にグイッと腕を引かれる。

体が前に倒れこむその一瞬、頬にやわらかいものが触れた。

…海流さんの唇だった。不意打ちの、頬へのキス。

「か…か、か、かかか海流さんっ!!??」

顔が、火をふくように熱くなる。

「…昨日の、お返し♪」

お、お返しって……。

「…この程度で赤くなるんじゃ俺を骨抜きにするなんてまだまだだな♪」

「ぅぅぅぅ…海流さんの、バカーーーーッ!!」

「あはははは!」

 

 


 

 

幸せな日々は、早く過ぎる…。

私は、アメリカに帰ってしまうまでのつかの間の幸せだと知っていたけど、

それでも、少しづつ…もしかしたらって思うようになってきた。

もしかしたら…いつか、思いが叶う日が来るのかなって…。

 

ある日、真湖とメールしていた千春さんが泣き出した。

別に喧嘩したとかそういうのではないらしく…

真湖に聞いても何も答えない。

次の日は、悠馬さんが真湖にメールを送っていた。

…何を話しているの?って聞いたら

「俺等三人でポエム送りあってんの♪だから、内容は秘密ー♪」

とか言われた。ポエム…そりゃ隠すよね…。

 

真湖は最近何やら色々悟ってます調で、悠馬さんにだぶってしょーがない時がある。

…ポエム効果??

 

幸せな日々だからといって遊びまわっているわけじゃない。

ヒギンズは勉強にも、厳しい。

センター対策に5教科7科目、

みっちり叩き込まれる日々…しかも全教科ほぼ完璧に教授。

さすが現役院生…未来の博士…。

某国立大をストレートで入っただけのことはある…。

 

こんな人に届く日が、くるのか??

うーん…考えても仕方ないか。

 

 

21日…

いつものように、予備校に行く前に顔を出そうと店に来た。

すると目の前におかしな光景が広がっていた。

真昼間だって言うのに、

関ちゃんのワゴンに乗り込む店の面々&海流さん。

「…月子?」

海流さんが乗り込むのをやめて下りてこっちへ来る。

「…今日は約束してなかったよな?」

「そっちこそ店ほおりだしてどこ行くの?」

「……子どもは行けないとこ。受験生は予備校に行きなさーい♪」

「いっ…言われなくても今から行くよ!」

「はは、そうか。よろしい♪…。」

海流さんが、じっとこっちをみつめる。

?…何?どきどきするからそんなにみないでっ。

「お月さーん♪」

むにゅっと頬をのばされる。

ま、また!!こ、このぉ…

だけど次の瞬間、指先が緩み、海流さんの掌が頬を包み込んだ。

そしてそのまま海流さんの綺麗な顔が近づいてきた。

 

 

――――触れるだけの、優しいキス―――――

 

 

 

え…私、海流さんと…キス、してる…?

あまりに突然の出来事に、頭はパニックだった。

そして、海流さんの唇が離れ、海流さんは優しく微笑んだ。

「か…海流さんっ……?」

海流さんはくすくす笑ってもう一度私を見つめた後、車の方へ向く。

「じゃ明日…な、月子。」

後ろ手に手を振って、ワゴンに乗り込む。

私は消え行くワゴンを呆然と見ていた。

 

――――『……もしも、キスできたら……“恋人”になれるかな?』―――――

 

……思っていたことが、現実に…なったの?

…そう、思ってもいいの?…海流さん…。

 

 

大好き…。……あの人が、愛しい……。

 

 

 

 


 

 

次の日、海流さんの誕生日が来た。

私はやっと想いが届いたという嬉しさで、幸せでいっぱいだった。

 

プレゼントに私が買ったのは、シルバーの指輪だった。

ダイヤじゃないけど…いいよね?

どきどきする…。この指輪、どの指にはめてくれるんだろう…。

すぅっと大きく息を吸い込む。

「こんにちは!!!」

「「「月ちゃん。」」」

男性スタッフが綺麗にはもった声で私の名前を呼ぶ。

「あははは、すごいね!綺麗にかぶった!

 …あれ?千春さんと海流さん、まだ来てないんだ。」

「…ああ。」

千春さんは分かるとして…

「海流さんどこ行ってるの?」

――バタン――

「おはようございます。」

「おう、おはよう。」

入ってきたのは、千春さんだった。

「千春さん!」

千春さんは私の声に応えて、にっこりと笑いかけてくれる。

みんなが揃ってるのに肝心の海流さんが来ない。

「あーあ、主役が遅れるなんて、だめだめだね。」

「………。」

悠馬さんが、口をつぐむ。

みんなも、何だか悲しそうな目をする…。

 

…………何………?

 

鼓動が早くなる。こんな雰囲気…いやだ……。

だって、いやな事を考えてしまうから…。

 

…………違うよ…ね?

「ゆ…まさん?……海流さんはどこ…?」

「…………。」

「違う…よね?」

 

まさか…

「…………。」

「……違…う、よ…ね?」

 

そんなこと…そんなことっ…。

「海流は」

…あるはずない!!

 

「昨日アメリカに帰った…。」

 

――――ドクン――――

 

 

『じゃ明日…な、月子』

 

 

「…え?」

 

――――ドクン――――

 

「これ、月ちゃんにって…預かってる。」

渡されたのは、小さな箱と、封筒…。

 

――――ドクン、ドクン――――

 

箱を開けると、そこにはダイヤで形作られた月の形の指輪と、

白い透明な宝石のピアス…。

 

―――――ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――――

 

心臓が、痛みを帯びた鼓動を打ち出していく。

 

「ホワイトトパーズのピアス…。」

呟いたのは、千春さんだった。

 

封筒を開ける。

…達筆な、文字の並び……。

 

 

 

『俺に教えられることは全て教えました。

 これが、最後のレッスンです。

 一瞬一瞬を、精一杯…自由に生きること。

 それが、これからの自分を磨くことになるのです。

 この指輪は、俺からのお礼です。

 今は少し早いけど、いつか、君はこの指輪が良く似合う最高の女になる。

 俺は、そう信じてるからな。

 綺麗になっていく君の姿…それが俺が君に望む誕生日プレゼントです。

 今までで最高のプレゼントを、ありがとう。…そして、さよなら。

 三崎 海流』

 

 

涙が、あふれてとまらない…。

 

 

「……月子…。」

「…月ちゃん。」

「月ちゃん…。」

「…月ちゃん…。」

 

遠くから…みんなの私を呼ぶ声が聞こえる…。…近くにいるのに…。

 

 

……どうして、どうして…?

目の前が、真っ暗になる…思いもしなかった、‘絶望’の到来。

 

どうして…?海流さん…。

貴方にとっての私は、結局…こんなにあっけなく切れるような…

…そんな存在だった?

……“素材”でしか、なかったの……?

 

ねぇ…教えて…。

 

………もう一度、声を聞かせて…。

 

 

――――『……もしも、キスできたら……“恋人”になれるかな?』―――――

 

 

……こんな終わり方、ない…っ…!

 

 

真っ暗な視界の中で、

白い至高の宝石のついた指輪と、

ホワイトトパーズのピアスだけが、綺麗な光を放っていた。

 

 


 

 

 

貴方の声が聞こえていた頃は、

ピアスなど無くても、

貴方の声だけは他より大きく聞こえてた。

 

今は、ピアスをつけていても…

…貴方の声だけ聞こえない…。

 

 

だけど、はずしはしない。

 

 

このピアスは、

私の耳が貴方のものだって証しだから…。

 

 

 

 

ねぇ、見える?

 

 

 

 

 


 

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すいません…ダメでした(T0T)長くなりすぎました…。

何とか20話で終わらそうとつめこんじゃいました…これぞ究極の纏め下手!泣。

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