Eternal Memories(追憶) -17-

 

 

ずっと…答えるのに戸惑う質問があった。

 

「彼氏いる?」

女の子同士が、挨拶代わりのように聞きあう質問。

その質問に私はいつも「いないよ」と簡単に答えた。

だけど、その次の質問には…私はいつも答えられなかった。

 

「じゃあ、好きな人はいる?」

 

 

…なんて答えればいいのか分からない。

私にとっての貴方は…“好き”な人なんかじゃないから。

 

私にとっての貴方を表す言葉が、どうしても見つからないんだ…。

 

 

…言葉に、できないよ…。

 

 

 


 

 

…いま…なんじなんだろう…

…ここは…どこなんだろう…

…わたしは…なにをしているの…?

 

―――ピリリリリ―――

静寂を打ち払うような機械音で、ふと我に変える。

携帯を開ける。それは、悠馬さんから入ったメールの音だった。

『月ちゃん、俺達のところへは…もう来ないつもりか?』

 

?…どういういみ…?

あ…ここ、私の…へや…?

 

私…海流さんのバースデーパーティに行ったんじゃなかったっけ…?

…それで…それから…

 

―――コトッ―――

 

……なに……?

…黄色い…箱…。

 

………………………。

 

「………あ……。」

 

 

『今までで最高のプレゼントを、ありがとう。…そして、さよなら。』

 

「…あ…。」

突然蘇る…記憶…。

 

「…あ・あ…ぁぁあ……。

 ……ふ……うっ…ひっく…。

 ぃ…ゃ……ぁ…。

 

 

心から血が噴出して…痛みで涙が溢れ出た。

 

 

 

 


 

 

何時間か経ち、涙も枯れそうなほど泣いたあと…

ゆっくりと冷静さを取り戻して落ち着いた。

だけど胸の傷も流れる血も、その痛みも…何も変わりはなかった。

 

ちゃんと、終わらせなきゃ…ね。

『明日、行くよ』

悠馬さんに、そうメールを送った。

 

次の日、店に入った私を迎えたのは千春さんのハグだった。

涙を流しながら、私の耳元で来てくれてよかったとずっとずっと繰り返していた。

ずきん、と胸が痛んだ。

 

「月ちゃんが来てくれて、本当に良かったよ。」

控え室で悠馬さんと智くんと3人で過ごしていると、

悠馬さんが、改まったように優しい目と口調でそう言った。

「俺も、本当にそう思う…。

 海流さんのことがなくても、月ちゃんと俺達はまた別の関係だって…

 俺らも、月ちゃんのこと…大切に思ってるから。」

温かい智君の言葉が素直に嬉しくて、私はゆっくり微笑んだ。

「悠馬さん、智。予約のお客さんが来たわよ。」

「ああ。今、行く。月ちゃんも、店に出るか?」

「ううん、今日はここにいる。」

「そうか、じゃあ行ってくるな。」

悠馬さんが私の頭をぽんぽんと撫でる。

「…いってらっしゃい。」

精一杯の気持ちを込めて、二人に微笑んだ。

それは…海流さんを真似た、優しい微笑み。

智くんは、行ってきますといってにっこりと微笑んだ。

だけど悠馬さんは、一瞬目を細めて私をじっと見た。

「どうしたの?悠馬さん。早く。」

「……ああ…。」

…気付かれた…かなぁ…。

思わずするのは、苦笑い。あの人の癖が…うつってしまったみたいだった。

 

みんなが店に出てから、私はゆっくりと控え室を見回した。

そこも、ここも…何処を見ても変わらないのに…あの人がいない。

記憶が作り出す残像だけが見える…。

 

ベッドルームに入る。

ベッドも、ソファも…カーテンを揺らす風も変わらないのに…あの人がいない。

あの絵のように綺麗な光景が夢幻のようだ…。

 

……もう、ここには来れない…。

ここは…海流さんの居場所であって、私の場所じゃない。

 

「さよなら」と、紙に書き…それを机の上に置く。

その横には、海流さんに買った誕生日のプレゼントを置いた…。

立ち上がって、裏口へと足を運ぶ。

 

みんなが楽しそうに話す声が、店から聞こえた。

「…さよ、なら…」

もう一度店の方を見て小さい声でそう言ってから裏口のドアをあけた。

 

さよなら、さよなら…大好きだった。

…本当は、ずっとずっと…もっともっと………。

 

 

その日、私の携帯にずっとずっと映し出されていたのは、

スタッフのみんなの名前と番号だった。

ずっとそれをとらないでいると、一通のメールが入ってきた。

『月子!これ何?こんなもので私達終わりなの?

 月子にとっての私たちはこんなものなの?

 許さないから、これで終わりなんて絶対!千春』

 

だけど、悠馬さんからは何故か連絡はなかった。

 

 


 

それから、1ヶ月が過ぎた。

書置きした次の週は、

予備校に向かう時千春さんが駅で待っていたこともあった。

通学途中に智君がハーレーで待ち構えていたこともあった。

毎日、携帯には着信が続いて…。

だけど、それは一週間で止まった。

それが、私をほっとさせた。

 

もう…あの人に繋がるものに、触れたくなかったから…。

痛みを感じるだけだったから…。

倒れそうなくらい…崩れ落ちそうなくらい…精神はもうぼろぼろだった。

 

あの人がいない…あの人ともう、会えない…。

それだけなのに…。

あの人を知らなかった頃の生活に戻る…あの人を知らない状態に戻る…。

……それだけのことなのに……。

 

 

そんな精神状態が続いたある夜のことだった。

予備校の最寄駅に着き、電車を下りた瞬間にふざけた着信音が鳴り響いた。

 

ピルル〜♪ピルルルル〜〜♪ぱぷぱぷぱぷ♪

―――ピッ。

「…真湖?」

『そう。今どこ?…どこでもいいや。今からすぐうちの家来て。』

「…は?今から予備校なんだけど…」

『いいから、戻って来。てゆうか何が何でも戻って来て。

 じゃあ待ってるから!』

「ちょっと真湖それは…」

―――プツッ…―――――

問答無用強引即切強制呼び出し。

…これで、何度目だろう…。

でもいつもとは少し様子が違った。

予備校を休んでまで来いなんていうことはまずなかったからだ。

よっぽど切羽詰ってるらしい…一体、何があったんだろう…。

何か…大変なことになってるのではとにわかに不安になり、急いで引き返した。

 

 

1時間後…真湖に家に着く。

―――ピンポーン―――

がちゃっとドアが開き、真湖が顔を覗かせる。

「…待ってたで、入って。」

「どうしたの?」

「とりあえず、うちの部屋おいで。」

家にあがらせてもらって階段を上がり、真湖の部屋へはいる。

「はい。」

部屋に入ってすぐ私の前に差し出されたのは、少し小さめの青い封筒。

「何これ?」

「悠馬さんから今日来た手紙に入ってた、海流さんからのあんた宛の手紙。」

 

………え…?今…なんて……?

 

………か…い…さ…から……?

 

 

心臓が、ずきんずきんと痛みを帯びた鼓動を打ち出す。

その言葉通り…深い、青空を思い出させるような色の封筒の裏には、

私が誰より会いたい人の名前が書かれてあった。

「それさ、封してなくて…悠馬さんの手紙に

 『中見てもいいよ。海流が好きにしろって言ったから。

 …俺は開けた瞬間に読むの放棄したけどね。』

 って書いてて…それじゃあと思って読もうとしてんけど…」

…?中を見てもいい??

疑問を感じながらも、震える手で封筒から手紙をとりだす。

「うちも開けて一瞬で放棄した。」

放棄? 何のことだろう…何が書いてあるの?

真湖の言ってる言葉の意味がよく分からなくて、疑問が頭を駆け巡っていたのだが…

手紙を開けて目の前に広がる文字を見てその意味を理解した。

「…………………。」

「…うちには…無理。」

「………。」

手紙に書かれていたのはそれはそれは見事な筆記体。

すらすらと流れるように美しい文字で書かれた英語…。

……………いやがらせ?

とりあえず、読まなければ何も始まらない…。

そう思ってはぁっと息をついてから、ゆっくりと読み始めた。

「あ、でも一文…うちでも分かる文があったで。」

真湖の言葉にそうなんだと相槌を打つが、

既に私の心は海流の書いた文字の並びに奪われていて、その意味を考えてもいなかった。

 

 

My dear, ...my fair lady...

I will tell you that...(君に隠してきたことを話さなければなりません。

もしかしたら、傷つけるのが怖かったのかもしれない、

傷つけられるのが怖かったのかもしれない。

だけど、伝えなかったことを後悔してはいません。

酷い男だって笑ってもいい。…でも、どうか泣かないで欲しい。

たとえ、俺の気持ちを知った後でも…。

 

……愛してる…。

 

これが、ただ一つの真実です。

“愛してる”…ずっとそう言いたかった。

もちろん、君が俺をどう思っているのか…知ってるよ…

でも、俺には君を抱き締められない。君に触れることは出来ない。

俺に…縛られてはだめだ。

そしてどうか過去の思い出に縛られないで欲しい。

きっと君はもっともっと、いい女になれるから。

…君と出会えた感謝の気持ちを、どんな言葉にも出来ません。

頼むから、泣かないでくれ。

「笑顔を、忘れるな」って…教えただろ?

もう一度だけ、言わせてくれ。).... let me say again...

 

I love you only...

And, .....good-bye.

 

 

「……か…る……さ………」

声が出てこなかった。

"I love you"

…聞きなれた英語…。

ずっとずっと、貴方に言ってもらいたかった言葉…。

 

涙が、止まらなかった。

"good-bye"

…使い慣れた言葉…。

何よりも誰よりも、貴方から言われるのが怖かった言葉…。

 

…Please don't cry なんて…無理だって分かってるくせに…。

 

…海流さん、海流さん、海流さん、海流さん、海流さん…

こんなにも、こんなにも想ってる…。

 

…………なのに……どうして……?

 

至上の幸せと、悲痛な痛みが入り混じる…。

 

 

「……ん。ついでやから、これも読み。

 …これが悠馬さんがうちに送ってきた、例の“ポエム”。」

まこが携帯を開けて私に渡す。

画面にうつっていたのは活字が並ぶロングメール。

送信日時は、10月半ば…送信者名は、悠馬さんだった。

力が入らず震える手でそれを受け取って、涙でぼやける目でそれを読む。

 

―海流について―

俺がアイツと知り合って、もう8年近くになります。

自惚れじゃなく、この8年…俺は誰よりあいつの近くであいつをみてきました。

まず、高1、おれのあいつへの印象は「もててて完璧な奴」。

何度か話したってくらいのいわゆる「知り合い」。

次に高2、同じクラスになって、別段仲良くなろうと思ってたわけじゃないけど、

しらないうちに仲良くなって、印象も変わった。

「絵がど下手。完璧…ねぇ…」

でも仲良くなっても結局食えない奴で、あいつにスキがあるのか分からなかった。

高3、ある女にマジ惚れしたあいつは結構スキがでてきた。

「完璧」じゃないアイツをみてほっとした。

そしてその女とちょっと色々あって、夏からアイツは遊び人。

学校の皆の評価は前の「スキなし男」に戻るだけじゃなく、

「近寄りがたい雰囲気の男(カリスマ系)」になった。

それから4年間、相変わらず遊び人だったけど、

心を許してくれてたから俺はアイツのダチでいた。

海流が大4の冬、「同窓会」でまた変わった。誠実な奴に…なった。

そして今年、2月に月ちゃんに会って、

約半年後の7月、お別れでアイツは彼女のおでこにキスし、ディスクを渡した。

車の中、俺はきいた。

「好きな女以外手出さないんじゃなかったか?」

『さぁ…。』

笑いながらかわしやがった。

8年変わらず「食えない奴」。でも、感じた。

こいつもしかして彼女を好きなのかも…。

そしてこの間電話で聞いてみた…。

「月ちゃんが好きか?」

『何だいきなり…。前言ったろ?

 アイツは友達とか恋人とかのどこにも属さない大切な奴だって』

「うそ…だろ?」

少しの沈黙、

『…俺オマエのそういうとこニガテ…』

「洞察力ではまだまだお前にまけないっつうの。」

『はいはい。…でも、さっきのも嘘って訳じゃないよ。』

「で?」

『…月子が好き…かもね』

ま、これは大体の話だが…

『正直に言ったら、可愛いと思ってる。…ドキッとするときもある』

「で?」

『…それだけだ。あいつに手を出す気はないよ。』

「何でだよ、好きなんだろ?抱き締めたいとか…」

『思うけど…するつもりはない。』

「何で?」

さっきより長めの沈黙、そしてアイツはいった。

『アイしてるから…』

「は?」

『愛しいと思うから…誰よりも…。…だから、手は出さない』

「ちょっと待て、月ちゃんはオマエのこと大好きなんだぞ!」

『知ってるよ。』

「じゃ何で?オマエあの子がすきならキスしたいとか抱きたいとか思わないのか?」

『だから思うって言ったろ?…でも、だめなんだ』

「何が?」

『一つの物に捕らわれたら成長はかたよってしまう。

 あいつは遠くにいる男に縛られてる間に色々なものをなくしてしまうだろう。

 あいつはこれからもっともっと多くの人に会って成長していく。

 俺はそんなあいつを縛りつけたくないんだ。

 好きな女にキスしたいとか手にいれたいとか思うのは、当然だと思う。

 でも俺はそうしたくない。…うまく言えないな…。

 …自分のものにしたいけど、したくないんだ。』

「…バカか?好きなら手に入れればいいだろう!

 月ちゃんだってそれを望んでるんだぞ?」

『誰に分かってもらえなくても別にかまわない。アイツが愛しいからこそ俺は手をださない』

そして最後にあいつは、月子ちゃんには絶対にこのことを言うなと念を押した。

アイツが俺に『言うな』と言ったのは8年間でまだ十回もない。

そう言われたら俺はいつもいわないことにしてる。

だから俺は月ちゃんに言わない。

まこちゃん、君を信用して話した。それを裏切らないでほしい。

俺と…店の皆と……月ちゃんと海流のために…。

あいつは自分自身に鎖をまきつけてるんだ。バカだと思うけどな。

でも、俺も何となく分かる。

ただアイツほど俺は自制心が強くないんだ。

アイツはこれからもきっと自分を切りつけて月ちゃんを守り抜くと思う。

でも、死んでも月ちゃんに手はださないと思う。

おれはあいつのそういうところを尊敬する。

ああ、やっぱりすごい奴だと思ってしまう。

まこちゃんしってるか?男にとって、好きな女を心のままに奪うのは簡単だけど、

その逆は…耐えることは…何より難しいんだ。

特に相手の自分に対する気持ちを知ってる時は…ね。

あいつはそれくらい月ちゃんを大切にしてる…。

でも、月ちゃんの恋はかなわない。そして海流の想いも…。

(注:これをしってんのは本人の海流と千春と俺とまこちゃんだけです)

俺も初めて知った…。あの二人みたいな恋もあるって、海流みたいな愛し方もあるって…。

こんな言い方はありがちだけど、あんな恋に…ちょっと憧れる…。

彼女にはいえないけどね…笑。

 

 

涙が流れた。

ただただ、止めようもないほどに…涙が流れて仕方がなかった。

どうやったって誤魔化しようなんてないのに、何とか誤魔化したくて声を振り絞って言葉を呟く。

「…長いメール…。」

「…うん、ほんまにな。うちも初めて見た時はびっくりしたもん!

 悠馬さん指痛くなったやろな〜って思って♪」

気持ちを察して、冗談を言ってくれる真湖に…感謝した。

「…あの…さ、月子。」

「…え?」

「うちはあんたのこと信頼してる。だからこそ、言いたいことがあるねん。」

真湖の声と表情が真剣になる。

「…何…?」

「あんたは、海流さんしか見えへんくなる位好きになってたかもしれへんけど…

 逆に言えば、依存しすぎてたよな?あの人がおらなダメって位に…。

 分かるよ?すっごい分かる…。でもそんなあんた、うちは好きやけど嫌いやで!

 もっと月子強かったよな?

 自分が変わっちゃうくらい人を好きになれるのは羨ましいけど、うちは…

 今の月子も好きやけど前の月子も好きやった。

 確かに海流さんと出会ってあんたの雰囲気が優しくなったのは事実…

 だけど、逆に弱くなったよな?」

「………。」

…真湖の言葉の一つ一つが、心に刺さる。

「あんたは海流さんに弱くなることを教わったんか?

 一人じゃ歩けないような…そんなダメな人間をあの人は大切にしてたんか?

 海流さんはそんな人間を愛するようなあほな男か?」

…真湖……。

「…うん…ありがとう…。…分かったよ…。」

「何が?」

「…何がって…。」

そう言われて、少し困ったように苦笑いする。

分かってるくせに、口に出させようとしてつっこむ真湖を厳しいなと思った。

でも、それ以上に優しいなと感じた。

「…海流さんは私を大切にしてくれてた。

 だけど、私はその優しさに甘えすぎて…また大切なことを見失ってたね。

 あの人に大切にされたことを、あの人が教えてくれたことを…

 あの人と過ごしたときを…無駄になんてしない。

 …あの人が愛してくれた私を、なくしたりしない…。」

 

『頑張れ。俺は、どんな時もお前の味方をしてやるから…。可愛い生徒だしな。

 …もっとも、できがいいとは言いがたいけど♪』

 

「…強く…なるよ。」

 

「…うん、もう大丈夫。うちもおるって忘れんといてな?

 いつだってうちは月子の味方やねんから!」

「………。」

思い返したあの人の台詞と同じことを言った真湖の存在に、気持ちが溢れる。

「……ありがとう、真湖…それ…何よりも嬉しいよ…。

 …まこが生まれてくれてよかった。

 まこと出会えて、まこと友達になって…信頼して信頼されて…本当に良かった。」

「…うちも、月子と友達になれてほんまに嬉しい。」

二人で、涙を流す。一昔前の友情ドラマみたいだけど…

でもこれが現実(リアル)なんだから、仕方ない。

脚本家が作った台詞なんかじゃなく、これが…私たちの真実(リアル)。

 

しばらく何も言わず、ただ二人で泣いていた状態が続いた。

涙も止まって落ち着いた頃、口を開いて静寂を打ち破ったのは真湖だった。

 

「…でもさ、海流さんと出会えてよかったね?

 あそこまで好きに…ううん、“愛”せる人に出会えるなんて滅多にないから…。

 苦しい恋…辛い恋やね…よく、頑張ってるよ…。」

…“愛”…?

真湖が口にした言葉に、心が反応した。

ゆっくりと広がる想い、それに重なるように頭が気持ちを理解し始める。

そうして形をなしていった“言葉”を、口で具現化する。

「真湖。」

「何?」

 

「私…ね。海流さんとの恋が、楽しかった。変わっていく自分を楽しんでた。

 なのに、最近そんな気持ちも…恋してるなんて自覚も薄れてきてた。」

 

具現化することで実感する想い。くるくると巡る言葉の循環。

 

「だけど、海流さんになら…何をかけても惜しくない。

 あの人が…大切なの。

 代えられるものなんてない…。

 ……あの人が死んでしまうなら、私が死んだ方がいい。」

 

「…月…子…。」

真湖の目が大きく見開かれ、その目の中には驚きが見えた。

私は、言葉を続けた。

 

「こんな想い、やっと分かったよ…。

 …これがね、今の気持ち…。」

 

小さく息をついた後、目を瞑って深く息を吸い込む…。

 

 

「……………あの人が、愛しい……。」

 

 

 

「つ…。」

私の名前を呼ぼうとした真湖の声はか細く、呼びきることができずに消え入った。

私はそんな真湖を見つめて、ゆっくり口の端をあげて微笑んだ。

 

「だからね、追いつくよ。…真湖…私頑張るから、見ててくれるかな?」

 

「…………。………うん………。」

 

もちろんと言う言葉がぴったりと当てはまりそうな笑顔とともに、真湖は返事をした。

 

「あと…もう一つお願いがあるねん。

 …悠馬さんも、店の皆も…月子を見ていたいんやと思う。

 『来て欲しい』ってそう言ってるから…行ってあげて欲しい。

 うち、店の皆の気持ち…分かるねん。うちも皆も、月子を大切に思ってる同士やから…。』

「…明日、店に行くよ。

 千春さんに殺されないように、とびっきりの笑顔を見せなきゃ。」

「あはは、ほんま殺されんようにしなな!美人さんに引導渡されるなら本望やろけど♪」

「もう、そんなの本望じゃないよ!」

重かった空間を打ち消すように二人で笑う。

 

 


 

 

その夜、しまっていたダイヤの指輪の箱をとりだし…手紙の横に並べた。

 

 

今は…私にとっての貴方は雲のような高みにいる人だけれど、必ず追いつくよ。

 

私は貴方に庇護されるなんて嫌だ。

いつまでも貴方に教えられる存在でなんかいない。貴方に変えられる存在でなんかいない。

 

貴方の横に立って、貴方を追い越して…

 

そんな存在に…きっとなってみせるから。

 

そうなるまで、…そこで待ってて。

 

 

『その内、絶対私以外の女の人を抱く気になんてならない位、

 貴方を惚れさせてみせるから!!!』

 

 

「…“絶対”だよ、海流さ…。」

慣れた呼び名を言おうとして、口をつぐむ。

 

 

今度は、貴方が追いかける番だよ。

 

 

「……海流、覚悟しててね。」

 

指輪を見てそう呟いて、

ホワイトトパーズのピアスで耳に穴を開けた。

ファーストピアスには細いけれど…これ以外のピアスなら、つける意味がない。

 

 

I cannot possibly put my thanks for our encounter in the words, too...

 

 

言葉に、できない。

 

 

 

 


 

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長っ!!…すみませんすみません…。こんなに長くなるなんて誤算でした。

そしてそしてお待たせしました…あと三話…どうか月子を見守ってやってください。

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