Eternal Memories(追憶) -18-
会いたい会いたい、声が聞きたい、笑顔が見たい…
そんな願いを何度口にして、何度飲み込んで…
どれだけの、夜を越えたろう。
焦がれても焦がれても…応えてほしい人の声は、聞こえない…。
海流の声を聞かなくなって、2年が経った。
時間が、ただ流れた…。
何を見ても、何処に行っても、何をしていても、
いつもいつも、…一瞬も忘れない。忘れられない。
いつもいつも、まるで麻薬に侵されたように…。
寝ても、覚めても…ずっとずっと思い浮かぶのは貴方のこと…。
側に貴方の笑顔が欲しい。
手を伸ばして貴方に触れたい。
それが叶わないのならせめて声でも、手紙でも、写真だけでも構わない…
貴方の存在を実感したい…。
「しようと思えば出来る」なんてそんな簡単に口にしないで。
「どうして出来ないの?」なんてそんな簡単に聞かないで。
「どうしてお互いに好き同士なのに“さよなら”なの?」
…もう、やめて。
貴女たちが私に問い掛けるその質問を、私が何度自分に問い掛けたと思う?
そんな疑問は…他の誰よりも私が一番思うこと。
他の人が頭に浮かぶどの疑問も、私が誰より強く、深く、抱いてる。
狂う程に考えても、結局答えなんて簡単には導き出せなくて、
…自分自身に何度問い掛けたか分からない。
だからもう、これ以上同じ質問を聞きたくない…。
『どうして、愛してるのに手を出さないんだ?』
悠馬さんが海流に聞いた…疑問。
『アイしてるから』
海流が悠馬さんに言った…答え。
あの頃の私は、悠馬さんの疑問を反芻し、
海流の答えをわかったふりをしていたけれど…本当は分かってなかった。
だけど今…2年を経てやっとその意味を理解できた…。
きっと私は、一度結ばれてしまったら…これほどには耐えられなかった。
貴方のいないこの場所で、笑うことも出来なくなってた。
貴方を知れば、私は他の何もかもを捨てても貴方と共にいることを選んでた。
…だって、触れられた貴方に触れられなくなるなんて耐え切れない…。
“『遠くにいる男に縛られている間にあいつはいろいろな物を失ってしまう』”
電話をすれば、次を期待して心が疲弊する…。
手紙を書けば、その手紙に執着して筆が覚束なくなる…。
写真を見れば、触れたくなって何を捨てても会いに行きたくなる…。
…きっと傷みで…簡単に壊れてしまう…。
貴方はそこまで、見抜いていたんだね…。
どれほど自分が子供だったかを実感した。
…どれほど貴方が私を大切に想っていてくれるのかを実感した。
綺麗事だとか、偽善だとか、甘いとか、自己満足だとか……
“『誰に分かってもらえなくても構わない』”
…本当に、貴方には敵わない…。
どこまで先を見通して、どこまで深く読んでたの?
雲のような…高みにいる貴方に、追いつくにはどうしたらいい?
雲のように…存在しても手が届かない貴方に、触れるにはどうしたらいい?
貴方が私を想ってくれていることが、ただ理解(わか)る。
ただ単純に…理解ってしまう…。
でも、理解っていても苦しい。
理解ってしまうからこそ苦しい…。
想っても想っても、何にもならなくて…
ただ距離が離れてしまっただけで感じてた絶望なんて、ちっぽけに思える。
貴方に焦がれて焦がれて…この想いが痛くて痛くて…
…こんな傷みに……もう……耐え切れない………。
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい…
……貴方の声が、聞きたいよ…。
この2年の間、様々なことがあった。
海流がアメリカに行ったその翌年の春、店は街へとその場所を変えた。
家から遠くなってしまったけれど、悠馬さんはことある毎に私を店に呼び、
楽しい時間を過ごさせてくれた。
千春さんと智くんは別れ、智くんは別の美容院に就職。
今でも悠馬さん達とは連絡をとりつづけ、私とも仲のいいまま変わりない。
二人が別れた理由は…私には良く分からないけれど、だいたいの想像はついた。
もう、2年…
あと、何年…?
答えのない疑問が、増えるばかりだった。
19歳最後の日…あと10分で20歳。
ベランダに出て月を眺めながらあの、16歳のバレンタインを思い返していた。
『入らないのか?』
『―――!』
初めて聞いた海流の声、その台詞…。
そういえばあの時、私すごく驚いて…頭の中ぐるぐるになってたっけ…。
海流のこと悪徳商法とか思ったりして…。
過去の光景を思い浮かべ、パニック状態になった自分自身の姿を思い出して、
苦笑いした。
ピリリリリ♪
過去の回想にふけっていると、携帯が光ってメールが届いた。
真湖からのバースデーメールだった。
画面を見れば、もう時計は0:00をさし、私の二十歳の誕生日が始まっていた。
そしてまた、携帯のディスプレイが光る。
ピルルル〜♪
…メール…じゃなくて、電話?
画面に表示された文字は“悠馬さん”だった。
「………。」
ピル…―――ピッ―――
「はい、もしもし。」
『月ちゃん、誕生日おめでとう。』
「ありがとう、悠馬さん。」
『一番乗り、奪えたかな?』
「あはは、残念。真湖からのメールが一分早かったよ♪」
『まじで?俺の時計ではぴったりにかけたつもりなんだけどな。
真湖ちゃんの時計がせっかちなんじゃないか?
…まぁ、いいか。その代わりプレゼント渡すのは俺が一番乗り貰うから♪』
「え?プレゼントなんて別にいらないけど…。」
『じゃ、明日…じゃなくて今日か。2時に市立図書館前で待ってるから♪』
「は?ちょっ…悠馬さん待……」
―――ブツッ、ツーッ…ツーッ……
有無を言わさずの、強制的な誘い…。
「……このパターンって……。」
……最近、真湖は悠馬さんに似てきたと思ったけど…
…悠馬さんも真湖に似てきたな…。
誕生日当日…
友達からのおめでとうメールの返事を一つずつ打ち返し、
二十歳になったということを少しずつ認識した。
「ふうっ、返信終わり…と。」
優しくて温かい皆からのメールに、幸せを感じてほっとする。
「あ、そろそろいかなきゃ…」
時計を見ると、針は1:30を差していた。
午後2時…10分前、約束の図書館前に着いた。
悠馬さんてば、プレゼントなんていらないって言ったのに…
しかも仕事もあるのにわざわざ当日に渡す必要ないのに…
下手したら今日はこのまま店まで連れて行かれてパーティとか…ありえそうで怖いなぁ…。
そんなことを思いながら、図書館前の広々とした階段の隅に腰掛ける。
上を見上げると、青い空が広がっていた。
今ごろ、向こうは21時か…。海流のことだからまだ研究に没頭でもしてたりして…。
…きっと今日が私の誕生日だってことも忘れてる位、集中してるんだろうな。
いつも、いつだって…頭に浮かぶのはただ1人のこと…。
…20歳…か…。もう、20代…。
どこまでいけば、追いつける?
どこまで走れば貴方に追いつくことが出来るの?
いつになったら、貴方の横に並んで…貴方と歩んでいけるのかな…。
追い抜いて、追いかけられる日なんて…来る気がしない…。
――『…この程度で赤くなるんじゃ俺を骨抜きにするなんてまだまだだな♪』
頭の中で、記憶の中でしか聞けなくなった海流の声が響いた。
透いこまれそうな青い空…こんな日は決まって、海流の姿が止め処なく思い浮かぶ…。
あの物悲しい笑顔も、温かな微笑みも、「ばーか」っていうその優しい口調も…
記憶のなかの海流は…変わらなくて…
思い出す、その言葉は決して増えることはなくて…
それが、どうしようもないくらい悲しかった。
「…綺麗な空…。」
…深い…青色の空…。
吸い込まれそうな青に目を奪われて、そう呟く。
その刹那…空気が変わった気がした。
後ろからふわりと甘く懐かしい香りが漂う…。
「…入らないのか?」
………………………………え…?
―――――ドクンッ―――――――。
あの日とだぶる既視感…いつか聞いた台詞…
幻聴と思うにはあまりに性質の悪いその滑らかな響きに、心臓が壊れそうになる。
あまりに性質の悪いその心地いい空気に、
…息すら、できなかった…。
答えられない質問を、何度投げかけられただろうか。
今は薬指に光る指輪のおかげで、その質問をされることもなくなった。
それが、とても嬉しい。
私が求めつづけるのはあなたの声、あなたの姿、あなたの存在そのもの…
いつもいつも、…いつだって…貴方を誰より想ってる。
“好き”なんて甘い言葉には当てはまらない。
ねぇ、この想いをうまく言い表す言葉って…何だろうね…?
いつだって…私が望む以上の言葉をくれる貴方なら…上手く表現できるかな…。
…何も言わずただいつものように苦笑いして微笑む…
そんな…変わらない貴方の姿に、
私は何よりの答えを見る。
こんな想い…あてはまる言葉なんかない。
…言葉に、できない…。
さて…これまたほぼ2年の歳月をすっ飛ばしての、18話です☆ さぁぁ、来ましたよ♪ついにこの暗々な状況から抜け出せるのか!?月子ちゃん!
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