Eternal Memories(追憶) -5-
「肌の調子、良くなったな。」
「ちゃんと『宿題』こなしてますから♪」
そう、はっきり言ってこの2週間、私は頑張った!
朝早起きし、1時間かけて学校に向かい、帰りは1時間かけて家へ帰る。
それから自転車で店へ行き、海流さんの『しごき』を受け、家へ帰ったらゆっくりお風呂へ。
お風呂から上がったら腹筋&背筋をきっちり30回した。
もちろん、学校の宿題・予習もやった。
低血圧にも負けず、自転車通学の誘惑にも負けず、筋肉痛にも負けず、
厳しいしごきを受け…(宮沢賢治風)
私は頑張った!
「うん、姿勢も大分良くなったし…いい調子だな♪」
へへ〜、褒められちゃった。
それにしても…よく考えたら初めて会ってからまだ1ヵ月半なんだよね…
時間にしたらすごく短いのに、私はものすごく海流さんを信頼して…気を許してる。
まぁ、何かなにもかももう知られてるしね…
くやしいけど性格もつかまれてるみたいだし…
すっぴんも見られまくってるし…この間なんて涙まで…はぁ。
私、人前で泣いたのなんて何年振りって感じだったんだけど…。
でも、私は海流さんのこと…ほとんど知らない。
知ってるのは、某国立大学の大学院生で、ものすごく頭がいい&賢いってことと、
顔が広いってことと、やたらもてるってことと、
ここの店長・悠馬さんとは高校の時から既に8年の付き合いで、
もんのすごく仲がいいってこと。
あとは……何故かメイクが上手いって事?
色々教えてくれるし、何でも答えてくれるけど、
海流さん自身のこととなると、ものすごく鮮やかにかわされたり、はぐらかされたりする。
本当に、どういう人なんだろう…?
そんなことを考えながらじっと海流さんを見つめていると、
海流さんは私の考えてることが分かるのか、
「そんなに見るな」と優しくあいまいに微笑む。
私は海流さんが微笑むと時々、何だか分からないけど…
…物悲しくなった…なんでだろう?
「あ・そだ、月子来週の日曜あいてるか?」
「え…う、うん。一応…。」
「よしっ、じゃ出かけるぞ。」
来週の日曜…私誕生日なんだけど…海流さんは知らないだろうけどさ…
…「レッスン」で17歳を迎えなきゃダメなの…?私…。
「どうした?予定でも思い出したのか?」
「ううん、別に…何でもない…。」
やっぱり誕生日は好きな人と過ごしたいなー…。って、いないんだけどさ。
いつか、そんな誕生日が迎えられるといいな。
日曜日、天気は上々で、ここ最近早起きをしている私は、
気持ちよく朝を迎えた。
「わ、いっぱいメールがきてる!」
受信時刻は全て0:00から後。
友達からのお誕生日メールだった。
最近、朝が早いせいか、夜は遅くても11時には眠りについている。
昨日くらい起きておけば良かったな、そしたらすぐみんなに返事返せたのに…。
そんなことを考えたけど、頭の中でその考えはすぐ却下した。
だめだだめだ、そんなことして肌荒れしたりあまつさえクマなんかできたら…
海流さんに何言われるか分かったもんじゃない!
…あ、しまった。ぼーっとしてる場合じゃない、支度支度!
待ち合わせに5分前につくように、家を出た。歩きながらみんなへの返事を返す。
幸せだなぁ…私、みんなが大好きだ。
だけど、ごめんなさい…。私…こんなに大好きなみんなに隠し事してる。
本当は全て言ってしまいたいけど…約束は破れない…。
待ち合わせの駅まであと少しの距離で、
駅の向こう側から駅に向かってる海流さんを見つけた。
海流さんも待ち合わせ5分前につくように来たんだ…几帳面だなぁ…。
距離的に海流さんが先に駅につくだろう。
…なんか、くやしい…。…先に着くように走ってやる!
その場からダッシュした私は海流さんより10秒程先に駅に着いた。
「何朝っぱらから全力疾走してるんだ?」
ぜーぜーいう私に、くすくす笑いながら海流さんが話しかけてくる。
「お…おはよう…。ぜーぜー。」
「おはよう。おいおい、大丈夫か?」
「う…うん、平気。」
「何をそんなに急いでたんだ?待ち合わせ時間まであと5分もあるのに。」
うっ…言えるもんか、海流さんに負けたくなかったなんて…
言えばぜっっっっっったいにからかわれる!間違いなく!
「俺に早く会いたかった気持ちも分かるけどな♪」
笑いながら海流さんは言った。
「ちっ、違う〜〜〜〜〜!!ぜーぜー。」
「はははっ、大声出すとますます息が苦しくなるぞ。…ちょっと待ってろ。」
そういって海流さんは私の側から離れた。
うぅ…理由言っても言わなくても、結局からかわれる私って一体…。
「ほら。」
「ひゃっ!」
頬に冷たい感触。…お茶の缶だった。
「あ…ありがとう…。」
「どういたしまして♪」
…この微笑みと、さりげない優しさに女の子は「めろめろ(表現古い)」になっちゃうんだろうな…。
そんなことを思いながら、缶ジュースを開けて飲む。
「月子、ジュースは飲むなよ。飲むならお茶にしろ。」
「何で?」
「身体にいいから。」
…………朝一からレッスンですか?ヒギンズ教授…。
電車に乗って、着いた先は人の集まるお洒落な街。
…海流さん、こんなにお洒落な人たちの中でも視線集めるんだ…。
通り過ぎた二人組の女の子の声が、ちらりと後ろから聞こえる。
「今の人、すっごいかっこよくない?」
…………海流さんのこと…だよね、間違いなく。
どうしよう…来るんじゃなかった!
私は後悔した。だってこのフレーズなら次の言葉は決まってる。
“一緒にいた女の子は大したことなかったね”とか…。
何を言われてるのか分かったもんじゃない。 ぅぅぅ…後悔…。
「月子、置いてくぞ〜。」
「あっ、ごめんなさい」
ぐるぐる考えてたら歩調が遅くなってしまっていた。
10分ほど歩いて、すごく綺麗なカフェに入った。
お昼ご飯をおごってくれるらしい。
入り口でも、完全にレディファーストな海流さんは何か場慣れしてるって感じ。
メニューを見るとすごくおいしそうなものばかり。私はパスタランチを頼んだ。
お腹減ってたんだ〜…楽しみ楽しみvv
しかし、現実は…というか目の前のヒギンズ教授は…そんなに甘くなかった。
ナプキンの使用方法にはじまり、フォークの使い方まで、
簡略式ではあるがマナーを叩き込まれる…。
あぁ…やっぱり…レッスンで始まる17歳…。
私は、世の中の無情を感じた。。。
お昼ご飯を食べ、カフェをでて、またてくてく歩き出す。
今度はどこにむかってるんだろう…?
「ね、海流さん。」
「何だ?」
「今からどこに…」
「すいませ〜ん。」
行くの?という前に誰かが声をかけてきた。
「何か?」
海流さんが答える。
「あの、『○○Style』って雑誌のものなんですが、お写真とらせてもらっていいですかね?」
『○○Style』!?って、あの、お洒落雑誌『○○Style』!?
ありえないんですがっ!…でも、これだけ目立ってたら当然と言えば当然かな。
すごーいすごーい!と心の中で連発してた私は、
海流さんの次の台詞を聞いて度肝を抜かれた。
「あー…すいません、俺そういうの断ってるんで。」
はぃ!?
「いや、一枚でいいんで!」
「本当に、すいませんが…勘弁してください。」
ちょ…ちょっと海流さん…!?
「行くぞ。」
雑誌の人をほったらかし、完全思考ストップの私の腕をひいて、海流さんはまた歩き出した。
「…ちょっと海流さん!!」
「何だ?」
「何で断ったの?『○○Style』だよ?」
「別にどこだろうが関係ないよ。……ああいうのに載ったら、後がうるさいんだ。」
……またずい分実感込めていうな〜…。一体過去に何があったんだろう…。
海流さんは一緒に過ごせば過ごすほど、知るどころか謎が増えていく。
何か…私の事ばっかり知られててくやしいな。
「で、どこいくの?」
「クラブ。今日知り合い主催のイベントがあるんだ♪」
クラブって…
「海流さん、何か部活やってたの?」
―ごんっ―という鈍い音がする。
横を見たら海流さんが看板に当たってた。
「違う!!部活じゃなくて…クラブだクラブ!」
「…あぁ!ママさんとかのいる!!」
「それも違う!漫才させるな!!
…まさかお前本当に分からないわけじゃないだろうな?」
「やだな、ちゃんと分かってるよ♪
DJさんとかいて、音楽がんがんにかかってるとこでしょ?」
「分かってるなら、ボケるな。」
こつんと頭をこづかれる。
だって…なんかくやしかったんだもん…スキがなさすぎて…。
階段を下りて、ドアをくぐると音楽ががんがんに鳴り響いてた。
「あっ、海流さん!ちわす。…久々っすね。」
「おう、二人な。DKもう来てるか?」
「あ・奥にいるっすよ。このイベント、海流さん来るって広まってたから、
常連から久々な奴らまでばんばん来てますよ。」
「何だそりゃ…。じゃな♪」
海流さんは苦笑いして券を受け取り、店の奥へ…私はその後についていった。
「う〜す。」
海流さんがフロアに入って一言そう言うと、
「おおっ、海流さん!」
「久しぶりっす!」
「海流〜、お前おせ〜よ。」
とぞくぞく人が集まってくる…。
何なの?海流さん…顔広すぎ。
こりゃ確かに「うまく行かない人とかいない」な〜。
しかしこんなとこまで人気者って本当に何者?
…っていうより研究とか勉強とかで忙しいはずの院生がこんなとこで顔広いって…いいの?
「その子海流さんの彼女すか?」
そうそう、彼女とか……って、え・何!?私の話!!?
考え事に没頭してた私に、海流さんを取り囲んでた人たちの一人がいきなり話をふった。
「え〜…海流さんフリーじゃなかったのぉ?」
女の人たちが言う。
「ば〜か、彼女なんかじゃないよ。」
そっ、そうだよ!どう見たって違うじゃん!
ていうか、そんな話振らないで〜…女の人の目線がいたい…。
「こいつは俺のお気に入り♪」
……………え?
「お気に入りって…こんな年下の子に手出したら、犯罪じゃないすか?」
「お前こんな子にまで毒牙にかけんなよ〜」
海流さんの言葉に反応して、みんな、口々にいう。
お、お気に入りって…。
その表現にちょっと照れる…けど、悪い気はしなかった。
「で、DKは?」
「ブースっすよ。次、DKさんまわすみたいなんで。」
「そっか。悪い、ちょっとこいつ頼むな。…まだ子供なんだから、手、出すなよ。
いい子にしてろよ、月子♪」
だっ、だれが子供だって〜〜!!しかも「いい子」って…海流さんのばか〜〜〜!!!
ふくれる私を見て、笑いながら、海流さんはブースへ向かった。
「ね、海流さんとどういう関係?」
「何歳?」
質問攻めにされる…ぅう…海流さん何やってんのよ〜…?
ブースの方を見ると、なにやらレコードを持ってDJのDKさん(とやら)と話している。
「どこに住んでるの?」
「高校生?」
ぅ〜…
「あの!」
何とか話題をそらそうと、大きな声で言った。みんなの質問がぴたっと止まる。
え〜っと…なんか話…話……………そうだ!
「海流さんって、ここにはよく来るんですか?」
くるしまぎれで聞いた質問だけど…
「来るっていうか…もう古参だよな♪」
「ていうか、顔だろ。あの人いるいないじゃすげえ客数違うもん♪」
「ごくごくたまにだけど代打でDJとか入ってくれるとみんな集まるし。」
「クラバーの間じゃかなり有名だよな。」
…答えがばんばん帰ってきて、話題が止まらない…。
謎だ…。謎過ぎる…。何で逆なの?
普通さ、その人の行きつけの店とか、知り合いとかに会うと、
その人のことがより分かるもんじゃないの?
何で普通と逆なの?何でこんなに訳分かんなくなってくんだ〜〜!!
「え?まじ?…海流さんまわすの?」
え?
「え…うそぉ…でもでも、何かそれっぽいよね?…まじ〜?」
「すごいすごーい!今日来てよかった〜!」
何何?何なの?…かっ、海流さん!?
ふとブースに目をやるとなにやら海流さんがセッティング中…。
「すっげ〜、久々に海流さんがまわすの聞けるんだ♪」
「あ・海流さん入る!よっしゃ〜!」
軽快でのりのいい曲が流れる。ブースにいるのは海流さん…
な〜にやってんだか。人をほったらかして…。うん、でも楽しいから許す♪
それから2曲、立て続けにまわし続け、2曲目が終わる頃…
ふ…と一瞬海流さんがこっちを見る。微笑みながら…。
そして流れた曲は…
ビートルズの――――――“Happy Birthday”
「ビートルズ?」
「海流さんがビートルズ?すげ、レア。」
「しかもバースデーソング?誰に?」
フロアはざわざわしていた。
あ…海流さん…知ってたの?今日…私の誕生日だってこと…。だから、ここに?
もう一度ブースを見ると、海流さんも視線に気付いてこっちを見た。
『はっぴー、ばーすでー』
海流さんの唇がそう動く。くやしいなぁ…格好いいや。…ん?
『おつきさん』
…一言多いけど…。……もう!
あと1曲だけまわして、それが終わると、海流さんは下に戻ってきた。
みんなにもみくちゃにされて、それから私の所へ来た。
「誕生日おめでとう。」
「海流さん、格好つけすぎ!」
「…お前ね………。
…そうかもな〜♪
…こんなお礼もいえないような出来の悪い弟子のためにちょっとやりすぎたかな?♪」
うっ…
「アリガトウゴザイマス…。」
「片言かよ。」
海流さんはくすくす笑いながら、そう言った。
「海流さ〜ん!ちょっとこっちいいっすか〜?」
呼び声がする。
「悪い、ちょっと行くな。」
「あ・うん。」
人気者だなぁ…なんかうらやましくなっちゃう。
私は、みんなと話してる海流さんを見ていた。
海流さんはずっと微笑んで…みんなに囲まれていた。
みんなと話している間、綺麗な造りの顔に、同じ微笑みがずっとずっと浮かんでいた。
いつもいつも、見ている表情。
それはすごく綺麗だけど…私は何故だか分からないけど、やっぱり物悲しくなった。
いつも、みんなの人気者で…
いつもいつも、みんなに優しく微笑みかけて…
だけどほとんどはつくられた微笑みだったね。
貴方は自分をとても鮮やかに隠すから…かわしてしまうから…
気付いていた人は…ほんの数人…。
私は…そこに入ってなかった…。…物悲しくはなっても、その理由が分からなかった…。
でも、今の私はあの頃の私じゃない。
辛い夜がありすぎて、上手く微笑えなくなって…
微笑みのつくり方を、覚えてしまったから…。
だから…、今なら…見抜けるよ…。
貴方の“偽”を見抜いて…“真”につくりかえてあげれるようになれたのに…。
第5話〜!はい、合併しちゃいましたね(笑)長くてすいません…。
本当にもう、皆様にはご迷惑をおかけしちゃって…申し訳ないです…。
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