Eternal Memories(追憶) -6-

 

 

『人は、失って初めて大切なことに気付く』

 

よく聞く言葉…

あまりに有名すぎて、滑稽にも思えてた。

 

こんなの、自分が体験しない限り、所詮他人の作った言葉だ。

 

 

でも今は……

 

その意味が分かりすぎて、自分が滑稽に思えるよ…。

 

 


 

 

誕生日から10日…。

 

「最近、なんかあんたあやしいで。」

大阪弁でずばっと言ってきたのは、中学時代同級生だった友達、

名前は真湖(まこ)。

彼女とは中学の頃、そこまで仲良しでもなかったけど、

違う高校に入って、何故かそれからすごく仲良くなった。

多分学校の友達以外で一番顔を合わす、心置ける友達。

だけど、一番近くにいる真湖にも、海流さんのことはやっぱり話してない。

本当はすっごく話したいけど…約束だもん。

「な、何が?」

「なんかこそこそしてるやん。…何か変わったし。」

「そう?別に何も変わってないと思うけど…」

「ほんまに?好きな人でもできたんちゃうん?」

「違うよ…。………あっ!」

「何何?どしたん?」

今日は久々に約束があったんだ!!

最近海流さんが研究で忙しくて会ってなかったから忘れてた!!

「ごめん!!用事思い出した!!!」

急いで立ち上がり、去ろうとする。

「何の用事?」

「人と会う約束!!」

嘘は、言ってない。

ごめんねと念を押して、私は自転車に乗ってその場を去った。

 

「やっぱり、あやしいな〜…。」

真湖がそう呟いたのを、私はこの時気付かなかった。

 

 

 


 

 

「こんにちわ〜。」

少し息を荒げながら、挨拶をして裏口から店の中へ。

裏口をあけるとそこは控え室で、

控え室の隣にはスタッフが泊まれるようにベッドを置いてある、ベッドルームがある。

私の挨拶に気付き、そこから出てきたのは……

……千春さんだった。

 

あの拒絶の時から、私は千春さんと二人きりにはなってない。

いつも千春さんは仕事で店の中にいたし、私は控え室にいた。

休憩を取りに控え室に入ってきたりもしたけど、その時は大体海流さんがいた。

だけど今日は、海流さんの姿が見えない。

…おかしいな、今日は遅くなるって聞いてないけど…。

千春さんと2人きり…ぅぅぅ…気まずいよ〜。

千春さんは立ったまま、ずっとこっちを見ている。…というか、睨んでいる。

顔が綺麗な分、迫力があって凄みがある…はっきりいって、すごく恐い…。

でもでも、迫力に負けてたら…いつまでたっても私を知ってもらえないし、

仲良くなれない!話し掛けなきゃ!!!

「あの…海流さんは…?」

遠慮がちに尋ねた。

普通に話さなきゃ…びくついてたら何も変わらない、ていうか悪化する!

「…ベッドルームで寝てるわ。研究で疲れてるみたい…。」

「そっ、そうですか…。」

ぅぅ…まだどもる…。

「ねえ、月子ちゃん。」

えっ!?千春さんが私に話し掛けるなんて珍しい…。

「ぅはっ、はい!」

………『ぅはっ』って…私…。もうぼろぼろじゃん…。

「海流さんと……。………。」

「え??」

途中で言うのを止めた千春さんに、思わず聞き返す。

「あの…千春さん?」

少しの沈黙の後、千春さんは口を開く。

「海流さんと、誕生日に…遊びに行って、

 …バースデーソングプレゼントされたって………本当?」

…???…なんだろ、この話はみんなもう既に知ってるはずなのに…。

「はい、ほんとですけど…。」

だけど千春さんも、知ってるはずだよね?あの日の後すぐみんなで店でその話したし、

千春さんもそこにいたし……なんで確認するのかな?

 

「…………に…………ぃで。」

「えっ?…ごめんなさい…よく聞こえな」

 

「海流さんにこれ以上近づかないで………!!」

私の言葉に差し挟むように千春さんは言い、小走りで店へ戻っていった。

 

悲痛なほどの、かすれた叫び声…。

それは、店にも聞こえない程度で、そんなに大きな声ではなかったけど、

私には…今まで聞いた中で、誰よりも…どれよりも…一番大きな声に聞こえた。

 

ああ…そうか。……やっと分かった。

私がどんなに頑張っても、千春さんが私を気に入ってくれることは…ないんだ。

海流さんが、私に何かを教え続ける限り…、可愛がってくれる限り…

……私が、海流さんから離れない限り……。

 

胸が苦しくなって、いたたまれない気持ちになる。

何故、気付かなかったんだろう…?

そんなことを考えながら…私は気付けばベッドルームに入っていた。

シンプルで、整理されたベッドルーム…そこにある一つの大きな白いベッド…

その上では、海流さんがすーすーと寝息をたてている。

まるで絵を見ているかのような錯覚さえおぼえるほど、綺麗な光景。

ベッドの側のソファに座って、それを眺める…。

 

私は…この人から離れられる……?

 

 

 

「月ちゃん。」

気付けば、後ろには智君が立っていた。

「ちょっと、こっちに来てくれる?」

海流さんを起こさないように、手招きしながら小さな声で智君は言った。

私はその手招きに応じるように、控え室へ入る。

ゆっくり、音を立てないようにベッドルームのドアを閉めて…。

 

「千春が、何か言った…?」

「え…何も…。どうして?」

「……千春の様子が、おかしかったから…。

 それに月ちゃんも…今すごく泣きそうな顔してるよ。」

「……。」

「千春、月ちゃんに海流さんが好きだって言ったの?」

「!…違…。」

「…いいよ、みんな知ってることだから。」

「え…?」

智君の言葉に、私は驚く。

「1年前…かな?千春、告白したんだ。…俺達みんなのいる目の前で…。

 …その時は、振られたみたいなんだけどさ…。

 やっぱり全然忘れられないってのは見てて分かるし…みんな知ってる。」

みんなの前で…?すごい…。

「初恋…なんだってさ。」

「…え?嘘!」

だってだって、千春さんがもてないわけないし…つきあったことないなんて絶対無いだろうし…。

「ホント。あいつ…いつも付き合っても、相手を好きになることはなくて…。

 彼氏とかに『俺のこと好き?』って聞かれても

 『無理に言わせるなら別れる』なんていってたらしい…。」

…これまたすごいこと言ってたんだな…。何かカッコいいけど…哀しいな。

「…で、そんなあいつが初めて本気になったのが、海流さん。」

「そう、だったんだ…。

 ……私、ちっとも気付かなかった…。」

鈍いな、と思う。

あれだけ拒絶されて、憎しみさえ感じるような目で睨まれて…

今考えると、理由なんて一つしかないじゃないか。

「で、俺は千春に惚れてる。」

「ええ!?」

「これも、みんな知ってるんだけどね。まあ、告白はしてないけど。」

くすくす笑いながら、智君が言う。

「俺は、海流さん相手じゃ…敵わない…。」

目が、真剣になる。

「でも、海流さんが千春の想いを受け容れないなら、俺は諦めない。」

「智君…。」

「だから、俺個人としては月ちゃんにいてもらうと助かるんだ。

 海流さんの目を、千春に向けさせたくない。

 月ちゃんとの“『マイ・フェア・レディ』ごっこ”に夢中になってるうちは、

 海流さんが千春を見ることはない…。

 海流さんがもしも千春に惚れたら…俺は引き下がるしかないから…。

 俺は……どれだけ頑張っても、あの人には敵わないから……。

 …俺も、切羽詰ってんだよね♪」

智君はそう微笑んで言ったけど、その微笑みがすごくせつなかった。

「それだけ。…じゃ俺、お客様のシャンプーも終わる頃だし、店に戻るよ。」

「…うん。」

智君は人差し指と中指を立てて、敬礼のようにおでこに手を持っていった後、店に戻った。

 

私は海流さんのいるベッドルームに戻り、またソファに座る…。

 

 

私は、この人から離れられる…?

 

 

初恋が、どれほど想いが深いものか…私は知ってる…。

私がこの人から離れないと…千春さんは私をもっともっと憎むだろう…。

 

 

私は離れられるの?…この人から…。

 

 

…あの日なら、離れられたかもしれない。

あの日…千春さんに拒絶されたあの日に、千春さんの想いに気付いていたなら、

私はきっと、ここにはもう来なかった。

だけど今は…

 

海流さんにはいろいろなことを教えてもらった。

外面のことだけじゃない、内面のことも…。

今、誰より尊敬してるこの人から…私はもっともっと学びたい。

 

…この人は、私の欲しい言葉以上の言葉をくれるから……。

 

 

『好きな人でもできたんちゃうん?』

これは、恋じゃない…。

 

だけど、この人は…特別な人…。

 

私に、かけがえのないものを教えてくれた…

そして多分、これからも教えてくれる……誰より特別な人。

 

 

「……………もう、離れられないや…。

 …ごめんなさい、千春さん…」

 

そう呟いて、涙を流した。

ああ…最近泣いてばっかりだな…。

「海流さんの、バカ…。」

何故か口をついて出た言葉…。

 

私がそう言うと、…ん…と言って、海流さんは寝返りをうった。

 

 

しっかりしてて、勇気があって、大人で、情熱的で…私とは何もかも違う女性(ひと)…

共通点の見当たらない…美しい美しい女性(ひと)…。

だけどあの女性(ひと)も…同じように…この人の寝顔に見とれてたんだろうか…?

 

 

 


 

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第6話ですが…さ、先は長いです…とてつもなく長いです(汗)

見捨てないで下さ〜い(T_T)ご意見・ご感想など、聞かせて頂けたら…vv

 

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