Eternal Memories(追憶) -7-

 

 

千春さんの気持ちを知って、1ヶ月半…

最近私は美容院のお手伝いをしている。

もちろん、「修行」の一貫として…

とはいっても、美容師として仕事をしてるわけじゃない…当たり前だけど。

私がしていたことは、カウンターと、掃除と…電話の応対くらい。

だけど、店の中で、スタッフのみんなの接客を見て

上手な会話の仕方と笑顔、気の配り方を学んだ。

ちなみに、カウンターなどで立っている時は海流さんがじっと監視していたので、

姿勢・笑顔ともに完璧にするよう心がけた…はぁ。

 

そんな中で、私はどんどんみんなと仲良くなった。

悠馬さんは、さすが25で店を持つだけあって、

あますことなくみんなに目を行き届かせることのできる人で、

洞察力っていうのかな?…ものすごい。

空気を読むのが上手いから、悠馬さんがいるだけで過ごしやすい雰囲気になる。

智君は、精神的に年齢よりずっと大人すぎる他のみんなと比べて、

年齢相応って感じで、私にも話しやすかった。

関ちゃんは、お笑い。明るくて、ギャグとか言ったりして、

エンターテイナーって感じ。でもしっかりしてて頼れる。

みんな話が上手くて…面白くて、まるでお笑い道場♪

店が流行るわけだよな〜…って勿論腕もいいんだろうけど♪

 

あの一件以来、特に智君とはたくさん話をするようになった。

そのかわり、千春さんは睨むどころか私には一瞥もくれなくなったんだけど…。

海流さんは、何があったか察してるのかいないのか…

相変わらず千春さんとも店のみんなとも仲良く話し、私をからかいまくり…

優しい微笑みを浮かべてた。

厳しい厳しい“ヒギンズ”振りも変わりない。

 

 


 

 

6月半ば、私の学校では文化祭が行なわれる。

進学校なうちの学校は、3年が夏以降は勉強に打ち込めるように

1学期に文化祭を行い、10月に体育祭を行なうのだ。

文化祭の目玉は、大劇場。

3年は全クラス、体育館の舞台で演劇をして、各クラスで競い合う。

最後のお祭り騒ぎ…みんな自然と気合が入る。

かなり本格的な劇をするので、準備も、2,3週間かけてじっくりする。

私は脚本と演出をし、チョイ役で出演もする…。…忙しい…。

その為、私は準備期間中は店には行けなかった。

 

…はぁ、もう1週間も顔出してないな…。みんな元気かな?

しょっちゅう顔を出していただけに、たかだか1週間が長く感じる…。

最も、毎日みんなとメールはしていたんだけど…。

「月子、ちょっとこっち手伝って〜〜」

「あ!はいはい!」

 

 

そして更に一週間…

………さすがに寂しい…。

海流さん…どうしてるだろ?

いや、元気なのはメールしてるし分かってるんだけど…。

……千春さんと楽しく話したりしてる…よね、仲いいし…。

あの二人が並ぶと本当にお似合いで、智君がかなわないって言うのも分かる。

智君だって、世間的に見たら十分すぎるくらいカッコいいと思う。

だけど、あの二人は、雰囲気がもうすでにちがうんだよね…。

…………なんか……切ないな……。

 

………ん?

………………私、なんであの二人が並んでるとこ想像しただけで切なくなるの……?

……………。

……変なの…。

…智君に同調しすぎてるのかな?

「な、澤木。そこどんな感じで台詞言えばいい?」

「え?…あ〜…そこはね…」

 

 

三週間目…今週の土日が本番…。

練習にもますます気合が入る。

みんなで同じことに一心不乱で取り組む…すごくすごく楽しいけど、

だけど………私……………。

 

ピルルル〜♪

 

「うわっ!」

いきなり電話が鳴った。

……海流さんからだ。

ちょうど練習も休憩に入っていたので、私は電話に出る。

 

「……もしもし?」

『月子?』

久々に聞いた声はなんだかやけに胸にずきんときた。

「どうしたの?」

『いや…元気かなと思って。』

「…元気だよ。」

『肌は?』

うっ……最近寝不足で、ちょっと荒れてる…。

「ちょ、調子いいよ♪」

『……うそつけ。どもったろ?今。』

ぅぅ…。

『無理してんじゃないのか?

 お前が倒れるとみんなに迷惑がかかるんだからしっかりしろよ。』

「分かってるよ…。」

『…無理すんなよ。

 …お前、どじだからな〜、頑張りすぎると大失敗するぞ♪』

ぅぅぅぅ…相変わらず一言多い…。

だけど、なんだろう…胸が痛いよ…。

「海流さん…」

『ん?』

 

「…………寂しいよ…。」

 

『………。』

 

…ぅわっ!ちょっと待て私、今すっごい恥ずかしいこと言わなかった???

 

でも…だめだ……もう…絶えられない…。

 

「会いたいよ…。」

『月子…』

 

こらえきれない…

海流さんの声って、こんなに胸を痛くさせるものだったかな…?

 

『しっかりしろ、甘ん坊な脚本や演出が上にいたんじゃ

 みんな演技なんかできないだろ?

 ………何があったか知らないけど…頑張れ。

 お前はこの俺の一番弟子だろ〜が。』

「うん…。」

『日曜で終わりなんだろ?』

「うん…。頑張る…ありがとう。」

『ああ…。じゃあ、もう切るな。まだ練習中だろ?』

「うん。」

『じゃ、な…。あ・肌には気をつけろよ!』

「分かってるよ。じゃあ…ね。」

 

プツン…。電話が切れる。

 

 

 

ああ…私…海流さんが、好きなんだ………。

 

だって、海流さんの声は誰より甘く聞こえた。

そしてどの声を聞いた時より私の胸は痛みを感じた。

声を聞いて、すごくすごく会いたくなった…。

 

私、あの人が………好きなんだ…。 

 

会いたいよ……海流さんの微笑む顔が見たい…。

 

何故、今まであの声を直に聞いてて、平気だったんだろう…?

 

 


 

 

文化祭が終わった。

私のクラスは審査員の全員一致で大賞をとり、みんな喜び合って涙を流した。

ものすごくものすごく、嬉しくて…楽しくて…思い出深いものだった。

 

そして今日、私は3週間ぶりに店にやってきた。

どきどきどきどき…。

店に入るのにこんなに緊張するのは初めてだ…。

「…すーはー…すーはー…。」

深呼吸して、心を落ち着けて・・・ドアを開ける。

 

「こんにちは!!」

入って一番に見たのは…本を読んでたらしい海流さん。

「ははっ、元気だな。久しぶり、大賞おめでとう。」

どうしよう…嬉しい、嬉しい、嬉しい、嬉しい…

だって、やっと会えた…。

もう嬉しすぎて…何も考えられないよ。

「あ、ありがとう!み、みんなにも挨拶してくるね!」

「な〜にどもってんだ。」

くすくす笑う海流さん…。

その動きの一つ、仕草の一つ、ゆれる髪の一本にさえ、

今までずっとずっと見てきたものなのに…胸を締め付けられる。

「べ、別に!いってくる!」

「あ・ちょっと待て。」

小走りで店に向かう私の手を、海流さんがぱしっとつかむ…。

触れられた部分が熱を帯びて、そこから全身に熱が広がっていく…。

そして少しずつ、海流さんの綺麗な顔が近づいてくる。

「ちょ…ちょっと海流さん、な…何?」

「……肌荒れてる。」

ぅぐっ…。そうだ、忘れてた…。私、この人とは「こういう」関係なんだっけ…。

この人には、至近距離で肌も見られるしすっぴんまで見られるんだった…。

「宿題追加。」

ぅぅぅぅぅぅ…なんて、なんて、不毛な恋…。

 

 

 

私は、毎日毎日店へ通った。

早く会いたくて、会えるのが嬉しくて、たまらなかった。

みんなも温かく接してくれて(千春さんはツンドラ気候も相手にならない冷たさだったけど)

そんな幸せで、光さえ帯びる日が続いた一週間後、

 

私は…

……………

……………………

……………………………信じられないほどの衝撃を受ける…。

 

 

 

 

 

 

「アメリカに、留学することになった…」

 

 

 


 

 

あの時、貴方がいった言葉は…

その時の私には絶望にも思えた…

 

その後…

「今」に比べてあの時の「絶望」があまりにも甘いもので…

私は何てバカだったんだろうと思った…。

 

 

だけど今は……「今」と思ったあの過去の「絶望」さえ、

「絶望」とは思えない…。

 

 

過去が…こんなにうらやましく思えるものだったなんて…

 

 

 

一つ…そしてまた一つ…

 

失うたびに…どれだけ自分が幸せだったかに気付く…。

 

でも、そんなこと…気付きたくなんてなかったよ……。

 

 


 

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第7話にしてやっと気付きました月子ちゃん!何て鈍いんだ…笑。

なんかむりやりココまで来させた感が漂いますが…どうぞお気になさらず♪感想をばv

 

 

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