Eternal Memories(追憶) -9-

 

 

7月半ば…。

真湖にばれてから、1週間が過ぎた。

私がいくら考えたくなくても…考えなくても…

海流さんのアメリカ行きはどんどん近づいてくる。

 

何で…?

やだ…やだよ、こんなの…。

やっと自分の気持ち認めたのに…やだ……。

アメリカ留学を告げられた時、そう思った。

 

分かってる、いやだって思ったってどうしようもないってことは…

海流さんを引き止めるような権利なんて誰にもない。

ましてや私には、「行かないで欲しい」って…一言小声でそう呟くことすら許されはしない…。

 

だって私は海流さんの恋人じゃない…友達ですらない…。

私は、単なる「素材」…。

 

いつ切れてもおかしくない関係…

“『My Fair Lady』ごっこ”という、現実(リアル)じゃなく遊び(ゲーム)で繋がれた関係…

不安定で…海流さんが「終わり」と言ったらそれまでの関係…。

 

 

私は毎日毎日、ただただ恐れてる。この脆い関係が切れてしまうのを…

 

毎日毎日恐くて恐くて仕方ない…いつ「終わり」を告げられるのか…

 

 

だけどそれ以上に恐いのは…

…………この気持ちに気付かれてしまうこと…。

 

私なんて、海流さんから見たらまだまだ子供で、この気持ちがばれたらきっと思われる…

「面倒くさい」って…。

重荷に、なりたくない…。

それは確実な「終わり」の訪れを意味するから、

 

 

私は恐い…。

 

 

こんなにも…狂おしいほど…傍にいたいのに…

 

ただ、傍にいるだけでかまわないのに…

 

願うことも出来ず、

 

ただただ怯えることしか出来ないなんて―――――

 

 

 

「月子ちゃん」

えっ?………あ…考え事して…ぼーっとしてた…。

…って、千春さん…!?

「ご、ごめんなさい…ぼーっとしてましたね、私…。…あの、何か?」

 

控え室で海流さんを待っていたところに、千春さんが話し掛けてきた。

一瞥もくれなかった千春さんが話しかけてくるなんて…、

…めちゃくちゃ恐い…。今度は何を言われるんだろう…ぅぅぅ、負けないぞ。

 

「…ぼーっと、ね。

 ………随分余裕みたいね?海流さんがアメリカに行くって言うのに…。」

余裕…?私が?……そんなの、全然ないよ…。

…こんなにも、苦しいのに…。

 

「余裕なんかじゃ…ありません…」

 

絞り出すような声でそう言った私を、千春さんは見下すような目で睨む。

「………そうでしょうね。……だって、あなたのせいだもの。」

 

…………え………?

 

「…海流さんの足枷は、あなただもの。

 本当なら、アメリカでの生活に体を慣らすために、

 もうアメリカに行かなきゃならないはずなのに…。

 ……あなたが不安そうな顔してるから、海流さんはアメリカに行けないのよ。」

 

………………………わ………………た……し…………が……………?

 

「あなたのせいで、海流さんは予定をこなせない。

 …………あなたは海流さんのお荷物になってるのよ!!!!」

 

千春さんはそう言って、店に戻っていった。

 

 

―― オ ニ モ ツ ―――――

 

 

…あ…………

 

…………あ……………わ…たし…

 

重荷に…なってるの?…足枷になってるの…?

 

あ…………私が、不安な顔してるから…海流さんは…。

 

私…私…何も出来ないから…だから………

 

 

………迷惑だけはかけたくなかった…………。

……………………重荷にだけは、なりたくなかったのに……………。

 

 

――ぱたぱたっ―――。

 

涙が、零れ落ちる。

あふれでる…それは止まる気配を見せなくて…

私は口元を押さえながら、駆けるように店を出た…。

 

 


 

 

『大丈夫か?…千春に聞いた。腹、痛かったんだって?』

家に着いて10分後、海流さんからそんなメールが届いた…。

私が1時間以上メールを返さないでいると、今度は電話がかかってきた。

だけど私は電話をとることも出来ずに…ただただベッドで涙を流してた。

 

――『あなたのせいだもの』―――

 

千春さんの言葉全てが、私の頭の中でくるくるくるくる回りつづけている。

 

――『…………あなたは海流さんのお荷物になってるのよ!!!!』―――

 

そう…なのかな…?…私が…重荷なのかな…?

海流さんがいなくなることは…確かに不安に思ってるし、

やっぱりこっちにいて欲しいとも思う…。

それが、顔に出てるのかな…?

 

 

―――『頑張れ。俺は、どんな時もお前の味方をしてやるから…。』――――

 

……でも、でも…でも……私……

やっぱり重荷でもなんでもいいから、海流さんの傍にいたい。

傍にいて欲しい…。

「行かないで」なんて絶対言えないけど…。

言えないから余計に表情に出るのかもしれない…。

 

ねぇ…私、いつからこんなに嫌な女の子になったの…?

足枷になってるのはこんなにこんなに嫌なのに…

その半面で、「私のためにいてくれる」のがすごく嬉しいなんて…。

 

 

自分が、こんなに醜いなんて思わなかった…

 

卑怯だなんて…思わなかった…。

 

…………こんなの、いやだ………。

 

 

――― た す け て ――――

 

ピルルル〜♪

 

電話が鳴る。…海流さんだ……。

 

ピルルル〜♪

ピルルル〜♪ピルルル〜♪

 

…でれないよ…。

 

ピル…プツッ。

 

…………ごめんなさい…。

 

―――『笑顔を忘れるな。』―――

 

 

……無理だよ…海流さん……。ほら、上手く笑えない…。

 

……… か い る さ ん …。

 

 

 

 

ピルル〜♪ピルルルル〜〜♪ぱぷぱぷぱぷ♪

 

 

いきなり緊張感のない音が部屋に流れる…。

このふざけた着メロをならせるのは、ただ一人だけ。

だけど今は…でれない…。

 

ぱ〜ぷ〜ぱ〜ぷ〜♪ピルル〜♪ぱぷぱぷぱぷ♪

 

さらにふざけた音が流れつづける…。

 

ピルルルル〜♪ぱぷぷぷ♪ぱぷぱぷ♪ぱぽぱぽぱぽぱぽ♪

 

ぅぅ……泣いてられやしない…。

 

ぱぽぱぽぱ…ピッ。

 

「…もしもし」

『おは〜〜〜! 何してん?』

…はきはきとした、大阪弁が受話器から聞こえる。

「ん…ちょっと…。」

『あっ、ごめ…もしかして店?』

「ううん、違うよ。大丈夫。」

『……あんた、もしかして泣いてたん?』

こんなに鼻声ならごまかしようもないな。

「うん。ちょっとね。」

『どしたん?海流さん関係か?』

「まぁ…ね。でも、大したことじゃないから…。」

『じゃぁ、何で泣くん?…アメリカ行きが辛いん?』

「ん…そんなとこ。」

『…なぁ、海流さんに「行かんといて」って言ったら?』

「無理だよ!海流さんにとったら夢に近づくチャンスだもん…。

 そんなの、彼女でもない私には言えないよ…。」

『そっか…。でも、傍にいたいんやろ?』

「…いたいよ。」

『じゃあ、行くまでは出来るだけ傍におらなな〜。』

え?

…あ。そっか…。

「………。」

『どしたん?』

「真湖に、感謝してるの。私、ぐるぐる考えてて大事なこと見失ってた。」

『???はぁ?』

「ありがとう、まこ!私…頑張る。」

『???????う、うん。まぁ…何かふっきったなら良かったけど…。』

「ところでさ、…」

 

そこから一時間、真湖と他愛無い話をして私はすっかりもとのテンションに戻った。

そうだ、私…海流さんの傍にいたいんだ。

だったら、こんな風にぐじぐじ考えてる暇はない。

だって、「別れ」がちょっとずつ近づいてるのは確かなんだもん。

一分でも、一秒でも長く海流さんの傍にいなきゃ…。

 

海流さんの傍にいると…私はいつも、勇気が出る、嬉しい気持ちになる…。

重荷でも、何でも…海流さんが少しでも長く日本にいてくれるなら…

その時間はできるだけ海流さんの傍で過ごしたい…。

 

「終わり」が来る恐さ…それは全然なくなってないし…やっぱりすごく恐いけど…。

今は…「傍にいられる」今は、

海流さんの傍にいたい…。

 

悩める時も、病める時も…どれほど辛くても…恐くても…

ただ、傍にいたいから、傍にいる…。

だって今は…願わなくても、傍にいることができるから…。

 

 

 

気付かせてくれて…ありがとう…。

 

 

 

 


 

 

貴女がいてくれて…良かった。

 

どれほどの闇も…どれほどの傷も…

貴女の存在が、照らしてくれる…そっと撫でてくれる…。

 

 

言い過ぎて言い過ぎて…嘘っぽく聞こえるかもしれないけど…

 

貴女には、どれほどお礼を言っても足りないから…。

 

 

貴女の存在に…

貴女が生まれてきてくれたことに…

貴女と出会わせてくれたことに…

 

心からの、感謝を込めて……この言葉を贈ります…。

 

 

 

―――――ありがとう―――――

 

 

 


 

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第9話〜♪友情ですね〜v  しかしこの話…最初の方書いてるとき、

もう辛くて辛くて切なくて切なくてたまりませんでした!…どうですかね?何質問。どきどき。

 

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