Staunch Friends(約束) -4-

 

 

言葉にどれだけの力があるか…

ただ一言の言葉が、どれほど人に影響を与えるか…

お前が知っていて、俺が知らなかったこと。

 

所詮言葉にできる思いなんて大したこと無いなんてスレた考え方してた俺に、

お前は革命を起こしたんだ。

 

あの言葉を、俺は一生…

いや、永遠に忘れることはないよ…。

 

 


 

「で、ちゃんと別れられたのか?」

「ああ。…美香には悪いことしてしまった。」

次の日の朝、まだたいした人数も登校しておらず、

10人ほどしかいない教室で海流と話してる時の事だった。

「海流!悠馬!!」

2年の時つるんでたダチの一人がばたばたと走りながら俺達の教室へ入ってきた。

「矢部…朝っぱらからうるせーぞ。」

「おう、何をそんなに焦ってんだ?」

「大ニュースなんだよ!!お前らまだしらねーだろ?」

「「何を?」」

「達也だよ、たーつーや!」

?さっぱり訳がわからず聞き返す。

「達也がどうかしたのか?」

「中山と付き合うことになったんだってよ!!」

……………な…っ………!

あまりにありえない言葉に、信じられず確認する。

「…嘘だろ?」

「マジだよ!達也一週間くらい前に告ってフラれたんだけどさ、

 昨日中山の方から電話があって、付き合うことになったらしいぜ。」

…んな、ばかな……だって中山は海流を…

!…海流!!

俺は慌てて海流を見た。

海流は深く考え込んでるらしく、表情が無かった。

「海流?どうした?」

矢部が、ぼーっとする海流に聞いた。

「あ…いや。…達也に良かったなって伝えてくれ。」

海流はキレイな笑顔でそう言った。

「ああ!じゃあとでな!!」

矢部は来た時と同じ位ばたばたと走って戻っていった。

「……海流…。」

「…中山に、確認してみる。」

 

午前の授業中、俺は授業も聞かずずっと考えていた。

…ありえない…中山は海流に恋してたはずだ…それは間違いない…。

昨日のことで海流の気持ちも分かったはずだ…

…それが何故達也と……?

大体達也はいつから中山に惚れてたんだ?

さっぱり分からない…何がどうなってんだ…?

くそっ、何故気付かなかった…!

 

中山はその日、休憩時間になると教室から出てばかりいた。海流から逃げるように…。

放課後、海流は仕方なく図書館に足を運び、委員として仕事する中山を呼び出した。

俺は…かなり失礼な行動だが…

あまりに気になったのでデバガメすることにした。

鋭い海流は気づいているだろうが…何も言ってこないってのは、

まぁ、許可とみなそう、うん。

勝手に自己完結して、二人の後をつける。

 

「達也と…付き合いだしたって?」

中山は、答えない。二人の間に沈黙が流れる。

次の言葉を発したのは、海流だった。

「…昨日のこ…」

「忘れよう!!」

海流の台詞を遮るように、中山は大きな声で言った。

「…え?」

「忘れよう!昨日のことは…。三崎くんには彼女がいるし、

 私にももう鈴木く…た、達也がいるし!忘れよう!!

 たっ…たかがキス一回くらい…何でもないもの!!あんなの…遊びだってするもんね!

 だから…忘れよう!!」

中山…だめだ…。

「…たかが…?」

「そ、そうよ!何でもないことだもん!たかが…キスくらいっ…!」

だめだ、やめろ…中山…っ。

「……。」

「か、勘違いしないでね!私は別に三崎君が好きとかじゃないから…。

 で、出来心だから…あんなの…」

「もういい!!!」

海流が、怒鳴る。…あの、海流が…怒鳴った。

それが、海流がどれほどの思いを抱えているかを切実に伝える。

「もう、いい…。忘れよう。……怒鳴って悪かった。…じゃ、な。」

 

『たかがキス一回くらい…』

“たかが”?

『…限界だったんだ…。』

『出来心だから…あんなの…』

海流が、どれほどの想いだったか…

中山、お前のその言葉は、きっと何より言ってはいけない言葉だった。

何故、海流を信じなかった?何故、他の男に電話したりした?

何故、他の言葉で言えなかった?そして何故…お前が電話をかけた相手が達也なんだ…。

相手が達也でなければ、きっとこじれた糸を解けた。それなのに何故…。

達也を…ダチを傷つけることは、海流にはできない…。

俺も、達也が相手なら…動けない。

中山の真意がわかっていても…海流がどうなってしまうか見えていても…。

 

その日から、海流はよく夜にクラブなどに遊びに行くようになった。

そして親しみやすさが消え、以前のように…いや、以前以上に近づきがたい雰囲気になり、

スキがなくなり、皆の憧れと羨望を一身に集めた。

俺は良く分からないが…多分これがカリスマ性って奴なんだろう。

と同時に作られた笑顔も格段に増えた。

女遊びも派手になり、よく噂されるようになった。

俺は一言の強さの一端を感じた。

だが海流はどんなに変わっても、何故か俺に対する態度には変わりが無かった。

中山はといえば、達也と付き合いがうまくいっているようで…

だけど俺には少し辛そうに見えた。

そんなことが見えても、俺にはどうすることもできなかった。

二人の気持ちが見えていたのに…俺には、海流と中山を…救えなかった。

 

 


 

 

半月後、大変な事態が訪れた。

入院していた母の容態が変わったのだ。

次に意識が戻った時は、おそらく会話ができる最後だといわれた。

病室の中の母は、痩せていて顔が白くて…優しそうな瞳を開けた瞬間は、

まるで彫像が動いたように思えた。

母は目の前にいる自分の家族をしっかりと見つめ、

一人一人ゆっくり見つめながら話をした。

親父、姉貴、そして最後に俺と話をして…

「母さんのことはいいから…学校、行きなさい…。」

そう言って、目を閉じた。

死ではない…だが、もう動かなくなった。

息はあっても手に力が入ってなかった。完全な植物状態――。

俺には、もう…どうすることもできない…。

泣き崩れる姉を、ただただ呆然とする父を…なだめるしかできなかった。

悲しくなかった訳じゃない…でも、その場で涙を流せなかった…。

 

次の日、母さんの言葉を守るように…俺は学校に行った。

「おはよう、羽賀くん。」

「おはよう。」

「ぅぃっす、悠馬!」

「おう。」

いつもと変わらない顔…いつもと変わりない、言葉…。

誰にも気付かせたりなんてしない…気を遣われるなんてまっぴらだ。

ただただ、合わせるように笑顔を作る。言葉を偽る。

笑いたくもないのに笑わなければいけない…その痛みに耐え切れるほど俺は強いだろうか?

海流…お前はいつもこんな感じだったのか?

「おっ、海流!おはよう。」

「おう。」

海流は少し眠そうな顔で教室に入ってきた。

「…よ、海流。眠そうだな。寝てないのか?」

「おう、悠馬。昨日イベントがあって…――――。」

海流は言いかけて言葉を止め、俺をじっと見た。

…?なんだ?

「どうした?」

「…ちょっと来い。」

「ちょっとってもうHRが…」

海流は俺の言葉なんて聞こえないといった風に俺の腕を引っ張り、教室の外に出た。

 

そして、来た先は閉鎖されているはずの屋上だった。

「…閉鎖されてるぞ。」

「これがある。」

海流はにやりと笑ってポケットに手を突っ込み、小さな銀色の物体を取り出した。

「お前…鍵なんていつの間に…」

「さぁね♪」

――ガチャ―――

開くはずのないドアが、派手な音を立てて開いた。

 

目の前に広がるのは視界いっぱいの空…。

なるほどね…ここなら海流の隠れ気に入りの場所としてはぴったりだろうな。

「こんないいとこ隠してたとはね。」

「隠してたって訳じゃないけどな。」

「…で、なんだ?」

「ごまかすなよ。……無理して笑ってんじゃねぇよ。」

………。

「…何の話か分からないな。」

「またバックれか?」

――キーンコーン…カーンコーン――

「…戻るぞ。」

「必要ねぇよ。」

「バカ言ってんじゃねぇよ。俺は何ともないって言ってるだろう。」

「…俺に嘘をつくな。何ともないなんて顔じゃねぇだろ。授業なんてどうでもいい。」

「ばーか、何いってやがるんだ…受験生だろ?お前。」

「関係ないな。…お前に何があったかなんて聞かない。でも、無理するな…。」

「……。」

傷口が…痛む…。笑いたくもないのに笑っていたさっきほどの痛みではないけれど…。

「…分かった。俺は、1限はここでいるから…。お前は戻れ。」

「断るね。」

「授業をふけるなよ、受験生。我儘はよせ。」

「お前が自己中でいいって言ったんだろうが。」

「そんな意味でいったんじゃない。」

「分かってる。」

分かってるってことくらい、分かっているさ…。

「……戻れよ、海流。」

「ここにいる…。」

「何でだよ。」

 

「……お前の側にいるために…。」

 

――――――――。

「………はっ、そう言う台詞は女に言……っ―――。」

その言葉を聞いて…ずっとずっと、抑えていた涙が止まらなくなった。

 

―――『側にいるために、側にいる』――――

 

そんな単純な言葉に…俺は救われた気がした。

はちきれそうな苦しさを…痛みを…偽って笑うその笑顔が作る傷を…

お前が、その一言で救った。

人前で泣くなんて初めてで、俺はコントロールもできずに、

ただ額に片手を当てて流れるまま涙を流していた。

海流は何も言わず、どんな顔も作らずに…ただ俺の側で抜けるような空を眺めていた。

 

結局その日は2限もサボり、二人で煙草をくわえて屋上で過ごしていた。

俺も海流も、煙草は吸えるが好きではなかった。

だが、何故か今日は二人で吸うこの空間が心地よくて、煙草がそう悪いものに思えなかった。

そして、昼休みを告げるチャイムが鳴った。

―――キーンコーンカーンコーン―――

「…戻るか。」

「ああ。…悪かったな、サボらせて。」

「全くだ。大学におちたらどうしてくれる?」

お前が落ちるかよ…。そうは思ったが、まぁここは素直になって謝ることにした。

「悪かったよ。」

「ははっ、珍しく素直だな♪」

…この野郎は…自分こそ天邪鬼のくせして…。

「…悪いと思ってるなら、一つ、約束しろ。」

「何だ?」

からかうような目をしていた海流が、真剣になる。そして、ゆっくりと口を開いた。

「俺に、嘘をつくな。」

「…なんだそりゃ…。」

「お前、分かりづらいんだよ…嘘かどうか。見抜くのも大変なんだ。」

…海流…お前、人のこといえるのか?

「約束しないなら嫌がらせにセンター試験、わざと白紙で出すぞ。」

こっ…この野郎!

「はーいはいはいはい!分かったよ。じゃお前も同じこと、約束しろよ。」

「………。」

海流は無言で目を細くする。

「何だそのあからさまに嫌な顔は…フィフティーフィフティーだろ?」

「…分かった。じゃあ、破った方は寿司おごりな。勿論、回転じゃないぞ?」

「ははっ、それは痛い出費だな。」

「ああ、だから守れよ。」

「…ああ。」

大丈夫…破りはしないさ。

 

――『側(ここ)にいる…。お前の側にいるために…。』――

 

お前がどれほど変わったとしても…お前が俺に心許す限り、俺はお前のダチでいよう…。

 

誓うよ…。

お前との約束は…破らない……絶対に…。

 

寿司は、高いしな?

 

 


 

 

お前がどんな思いであの言葉を言ったのか…俺は知らない。

嘘で言ったのかもしれない。その場の俺を宥めるためかもしれない。

 

言葉は…偽ろうと思えば、いくらだって偽れるものだから…。

だけど、人に思いを伝えるには、言葉しかないことを…お前は知っていた。

人は偽りか真実かを見抜ける目を持つ事ができると…知っていた。

 

なぁ、海流…だからお前は、あんな約束をさせたのか…?

 

だけど結局俺は…誓いを破ってしまったな…。

……寿司をおごるから、許せよな…?

 

 


 

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第四話は〜〜繋が〜りが悪い〜♪何歌。

あははーこれはあれです、しばらく物書かなかったためのスランプですな、うん(何言い訳、陳謝)

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