Staunch Friends(約束) -5-

 

 

 

長い付き合いの中で、あの時以外にお前の涙を見たことはない。

だけど笑顔は星の数ほど見た。

 

キレイな嘘笑い、

困ったような苦笑い、

少し不敵な笑み、

ただ単純に優しい微笑み、

そして、くすくす笑い…

 

 

どの笑いにも共通点が一つだけあった。

お前が自分でそれに気付いてないのが、一番の問題なんだよな…。

 

 


 

 

夏休み…周りが受験戦争を勝ち抜こうと“四通五落”なんぞと叫んでいる時に、

海流はなめきったことに、毎晩クラブに顔を出していた。

無意識の内に人を惹きつける海流は、すっかりクラブ仲間の間でも顔のようで、

俺の知らない知り合いもかなり多いようだ。

 

海流の第一志望は超難関国立大学で、

普通に考えれば、毎晩遊びに出かけていて受かるような所じゃなかった。

それでも周りは海流の合格を信じて疑わず、

俺も海流が落ちるなんてありえないことだと確信をもっていた。

だがそれは別に周りが思っているように

「三崎は特別だから」とかそういう不確かな理由からじゃない。

海流は確かに遊びに行っているが、その分勉強も鬼のようにしているのだ。

単にそれを表に出していないだけなのだ。

 

俺はといえばずっと前からある美容専門学校に行くという志望は確定しており、

そこへの推薦もほぼ確定していたので、

海流に付き合ってちょこちょこ遊びに行ったり、部に行って絵を描いたり…

周りの戦争状態からかけ離れたように結構自由に夏休みを過ごしていた。

 


 

夏、秋、冬…受験を交えた日々は慌しげに過ぎていき、

俺の第一志望入学も正式に確定した。

そして、センター試験、私学入試を終え、国立前期試験も終わり、

俺達はあっという間に卒業式を迎えた…。

 

式の朝、仲のいい仲間みんなで中庭に集まって話した。

「今日で卒業か…、意外と早かったな。」

「悠馬、なんか年寄りくせー。」

俺がぽろっとつぶやいた言葉に、矢部がいち早く噛み付いてくる。

「昔を思い返すにゃ早いんじゃねーの?」

からかうようにそう言ったのは達也だった。

達也は、中山とまだ続いており、同じ大学への進学も決定している。

「俺らと離れるのが寂しいんだろー?」

「うるせーな……全く、お前等とじゃ感傷的にもなれねー。」

「お、海流が来たぞ。海流〜〜!」

「おう、ここにいたのか。」

海流は少し不敵な笑みを浮かべながら近づいてきた。

「よ、昨日もクラブ行ってたって?」

「ああ、前期試験ももう終わったしな。」

「まだ合格かどうかも分かんなくて皆ドキドキしてんのに…余裕だなー。」

「ま、お前が落ちてるなんてことはないだろうけどさ。うらやましいぜ、この天才。」

「ばーか、緊張を紛らわすために遊びに行ってんだよ♪」

…誰が緊張してるって?

「はぁ?」

「どこが?」

「嘘つけ!」

海流の台詞に10人近くがみんな同時につっこむ。気の合う、ノリのいいダチたち。

海流を含め、仲間内で国立志望は、5人…

だが、ここにいるメンバーは皆既に私立大学に合格していた。

そのせいか、焦ることもなく、こうして和やかに話せるだけの余裕があった。

「おっと、やべぇ…10分前だ。」

「そろそろ行くか。」

「校長の話、長そうで嫌だな〜…。」

 

しぶしぶと、体育館へ向かう。

もう、こんな風にこのメンツでこの学校で駄弁ることはないんだな…。

そんなこと、誰も口にはしないけど…

皆がそう思って感傷的になってるってことが良く分かった。

 

 


 

 

式は何事も起こることなく、つつがなく終了した。

3年間が、こんなちっぽけな数時間で締めくくられるというのも、

何だか少し味気なく感じた。

 

そう感じるのはほかの奴等も皆同じのようで、

その日の晩は、三年で集まり、バカ騒ぎして高校生活の最後の日を過ごした。

 

その3次会…熱気に当てられた俺は、少し外の空気に触れたくて、

盛り上がりに盛り上がっているその場を抜け出した。

 

店の外に出ると、海流が煙草をくわえて花壇のヘリに座っていた。

「よう、海流。姿が見えないと思ったらこんなとこにいたのか。

 お前に想いを告げたいっていう女子達が探してたぞ。」

「悠馬。お前も涼みにきたのか?」

「ま、な。…一本くれよ、未成年。」

「ああ、どうぞ未成年♪」

俺は海流の横に腰を下ろし、煙草を一本受け取った。

ふと海流を見ると首筋に赤いものが見える。

……こりゃ…。

「……首、色っぽいもんがついてるぞ?」

「…?……ああ、まだ残ってたか。…気にすんな。」

どこぞの女と遊んだ跡…

不用意にこんなものつけてるなんて以前のこいつなら考えられなかったが…

「今更そんなもんで驚くかよ。」

「……そうだな。」

くすくすと笑う、こいつ独特の心地良い笑い方。

その笑い方には何の変化も見られないのに…お前の傷はまだ癒えないんだな。

…責任の一端を感じて、俺は少し罪悪感を感じた。

 

その後は別に何を話すわけでもなく、二人で黙って空を見ていた。

そんな時、ふと海流が口を開いた。

 

「…憶えてるか?」

 

いきなりの、質問…だがそれが何を指すのか、分かった。

 

 

 

『俺に何か文句でもあるのか?』

『別に…ただ聞きたいことがあるだけさ。』

『……楽しくもないのに周りに合わせて笑顔作って…面白いか?』

『…な…っ!』

 

 

 

「…憶えてるよ。」

 

また、沈黙…そこには懐かしさを帯びたような心地よさがあった。

 

 

「…高校も、終わったな。」

「…ああ。」

 

 

 

海流が、その一言にどれだけの重さを込めて呟いたか…

俺はしみじみと感じて、同意した。

 

美術室と同じ心地いい空間の中でぼーっと星空を眺めていると、

 

 

 

「「「かいるーーーーー!ゆうまーーーーーー!」」」

 

 

 

外までもれる音楽の中から、俺達を呼ぶ声が聞こえた。

 

戻るかと呟いた海流の顔には、もう何度も見た苦笑いが浮かんでいた。

 

 

 


 

 

腐れ縁ってこういうのを言うのか?

 

そんなことを何度も思ったけど…

今は今までより強く思ってるよ。

 

まったく、何でこんなに癖のある奴とこんな縁ができちまったんだろな…。

 

 

…まぁ…いいか。

お前の笑いは、どれも心地良い…。

 

―――どの笑いも、必要以上に人を惹きつけるんだよな――――

 

 

 


 

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はい、第5話…短いです☆これで二人の高校時代は終わり〜。

いかん…本格的にスランプっぽい…BBSでけなしてやって下さい(;_;)

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