Staunch Friends(約束) -6-
周りは俺たちを見て、
支え合ってる、とか
労わりあってる、とか
そんなことを言うけれど…
そんな甘くてやわい関係だったら…俺はとっくに投げ出してる。
お前には意味がわかるよな?
美容学校に入って3ヶ月…
重いカバンを背負って電車に乗る毎日にも大分慣れた。
海流は見事前期日程で超難関国立大学に合格し、そこに通っていた。
相変わらず派手に遊んでいるようで、女遊びもかなり…らしい。
だが、まぁ…ほっといても寄って来るんだから仕方ないといえば仕方ないか…。
そして最近は俺も恋愛していた。勿論、海流と違って遊びではないが…。
相手は同じ学校で、同じクラスの村野梨花。
既に周りも俺達を公認カップルとして扱い、互いに互いの気持ちを知っていた。
だが、まだ付き合ってはいなかった。
梨花が、元彼のヤンキーにつけまわされているからだった。
彼女はいつもそいつに怯え、そいつが俺に何かしてこないかを殊更に恐れていた。
だが、俺は逆にさっさとそいつが現れてくれることを祈っていた。
とっととけりをつけたかったからである。
学校から最寄の駅に向かう道を歩いていると、
いきなりガラの悪い男5人に囲まれた。
そして、ボスらしき男が、口を開く。
「羽賀悠馬って、お前?」
「……ああ、そうだけど?」
「梨花のことで、話がある…。」
…来たな。
「ちょっとそこまで、付き合え。」
そう言って強引に連れてこられたのは、“いかにも”って感じの、
裏路地だった。
「梨花に、手出してんじゃねぇぞ!」
はぁ…なんつーベタな言葉使うんだ。
こりゃこいつ、国語の点数はさぞ悪かったろうな…。
「…それは、お前だろ?…嫌がる女に付きまとうなんて最低だな。」
「うるせぇ!!」
短絡的、数学の点数も悪いと見た。
「梨花に近づかないと約束しろ、でなけりゃ殺すぞ。」
ドスの聞いた声…だが、少し迫力に欠けるな…。
それなりに修羅場をくぐってきたんだろうが…まだ、甘い。
こんな時だというのに、相手の人格判断をしてしまう、自分が少し憎い。
ここからの展開は、容易に読める。
ま、こんなくだらない脅しに乗るほどバカじゃないし…骨の2,3本は覚悟するか…。
俺はそう思い、このなめきった野郎に殴りかかった。
―――ドカッ――――
「ぐぁっ……!!」
「清水さん!!」
「この野郎!!!」
「殺すぞ、こらぁ!!!!」
その日、5人に袋にされた俺は全身打撲に、右腕を骨折した。
…肋骨2,3本は覚悟したのにな、半端な奴等だ。
「よう、悠馬。」
俺が一時入院したその日、海流は真っ先に見舞いに来た。
「海流…。」
そして、病室入って俺の散々な姿を見て…鋭いこの男はすぐ状況を察した。
「………誰がやった?」
いきなり海流の目が鋭くなり、その奥には怒りが見える…。
………ヤバイ…。
「…さあな。」
「『さあな』じゃないだろ。言えよ、悠馬。」
「それを知って、どうするんだよ。お前には、関係ないだろ。」
「そうは――――」
海流が次の台詞を言おうとした時だった。
間の悪いことに、梨花が俺の病室へ駆け込んできた。
「悠馬くんっ!!」
「……ごめんなさいっ…私のせいよね…ごめんなさい…。」
しまった!!…梨花!!!
「…どういうことだ…?」
予想通り、海流が梨花の台詞に噛み付いてきた。
「……何でもないよ。」
俺は何とかごまかそうと、平然を装う。
「……………。」
海流が、沈黙する…こんなもんで誤魔化せるとは思ってない…が…
「リカ…さん?…ちょっとこっち来てくれ。」
「え…?」
海流はそう言って梨花の腕を掴み、ドアの方へ進む。
――――だめだ!――――
「海流っ!!やめろこのバカ!!梨花、行くな!!!……っ!」
必死に止めようと体を起こすが、傷みで上手く体を動かすことができない。
「悠馬く…」
「いいから、こっちへ…。」
海流は俺を無視し、困った顔をして振り返る梨花を強引に引っ張ってドアから外へ出た。
「―――海流っ!!!!!」
梨花から相手を聞き出して、どうするっていうんだ?一体何をするんだ?
…そんなの決まってる!!!
そして俺の予想通り、1週間後恐ろしい噂が流れた。
あの半端なヤンキー連中が10人ほどでたまっている時に、
ある男が7人を連れて現れ、
ヤンキー連中をぼこぼこにして、全員入院させたというのだ。
梨花の元彼のボス格男は肋骨3本と鼻の骨を折ったらしい。
そして、連中は梨花の周りからもすっぱり姿を消したという。
そんなことする奴は…できる奴は…ただ一人しかいない…。
――――――海流……。
おそらく、知り合いの“そういう”連中…しかも半端じゃない奴等に声をかけたんだろう。
そして連中に格の違いを見せつけた……。
だが、そいつらよりも俺が恐いのは…お前だ、海流…。
そういった連中すら動かすことができ、信頼させるお前が…
お前のそのカリスマ性が…俺は、少し恐い…。
以前のお前なら…あの一件が起こる前のお前なら…
決してこんな無茶はしなかった。
いつになれば、お前の傷は癒える?…誰なら、癒せる?
不本意だが、その後俺は正式に梨花と付き合い始めた…。
右腕の骨折は回復になかなか時間がかかった。
3週間…美容技術を憶えこむ専門学校1年にとってそれは大きな時間だった。
一番覚えこみの時期に骨折し、
技術を磨くことができなかった俺を周りはがんがんに追い抜き、
俺は周りからすっかり出遅れた。
少しでもその遅れを取り戻したくて焦っていた俺は、
毎日毎日寝る間も惜しんでワインディングの練習をしていた。
だが自分でも分かるほど成長は全くといっていいほど見られず、
スランプ状態に陥っていた。
そして、ある日曜の夕方…
朝から休まず練習する俺の家に海流が訪ねてきた。
「よう、悠馬。…どうした?…顔色悪いな…。」
「…大丈夫だ。何か用か?」
「いや、イベントに付き合わないかと思って。」
「今、ワインディング練習してるんだよ…」
「ああ、前に言ってたパーマだな。…見て行ってもいいか?」
「…いいけど…イベントはどうすんだよ?」
「フケる。別に主催してるわけでもないし問題ないだろ。」
…お前がそう思ってるだけで、周りはかなり問題ありだと思うと思うが……。
お前がいるいないじゃ盛り上がりも変わるだろうし…。
…まあ、俺には関係ないが…。
「……黙って座ってろよ…。」
「はいはい♪」
海流を中に入れ、椅子とお茶を出す。
そして俺はもう一度、ロッドを手にもち、ウィッグの前に立ち、
ワインディングの続きに取り掛かる…。
……。
……だめだ…だめだ…だめだだめだだめだ!!
こんなのじゃ…。
スライス幅もめちゃくちゃ…
ネープもうまく処理できてないし…ステムだって……。
……もう一度だ!
俺は、巻いたロッドをはずし、もう一度初めからやり直す。
…………。
――――うまく行かない………。
「……。」
海流は何も言わず、ただこっちを見ていた。
…うまく行かない…。
いらいらして、全てを投げ出してしまいそうになる。
「……くそっ……。」
いっそ諦めてしまえば、楽になるのか…?
そのまま流れに身を任せて、汚濁を見れば…俺は甘さを叩きなおせるのか?
くそっ…くそっ…くそっ!!
何だって、俺は…
あの時腕をもっとかばっておけばよかった…。
どうして、できなかったんだ…ああ、ちくしょう…自分自身に腹が立つ…。
いっそ、もう……
「……悠馬。」
低く真剣な音を帯びた海流の声が、俺の名を呼んだ。
その声で、はっと我にかえる。
「…なんだ?」
「お前が倒れたら…俺はおいていくからな。」
思いもよらない、突き放すような言葉…。
その真剣な目から、本心で言っているのがよく分かった。
「……はっ…お前の後ろを歩くなんざ死んでもごめんだね。」
「上等♪」
そう言って笑った海流の顔は、優しげで…口の悪さとの矛盾が笑いをこみ上げさせた。
…倒れてたまるかよ。お前に、先は行かせない。
海流のいった、容赦ないその言葉は、
自分を見失い自暴自棄になりかけていた俺に、俺自身を見つめなおさせた。
そのおかげで、俺はすっかり出遅れていた技術を追いつかせ、
成績を格段にあげて、
ブランクを物ともせず、二ヵ月後にはクラストップまで上り詰め、
2年後、国家試験にも合格。
成績上位をキープしたまま、一番行きたかった美容院に就職して卒業した。
だが2年経っても、海流の傷は癒えていなかった…。
俺はことごとく海流に救われているのに、
俺には未だに海流を救うことができないでいた…。
俺達の関係は、
どちらかが倒れたら片方が手を貸して起こすなんて
そんな甘いものじゃない。
互いが互いを信頼している…それは確かかもしれないけれど…
互いが互いに負けたくない…そんな一種ライバル的な感情も持っている。
だから、手を抜かないし、相手を甘えさせたりもない。
俺があの頃、何よりも嫌だと思っていたことをお前は知っていたか?
――――お前に、見くびられ、失望されること…。
それは今も、変わっていないよ…。
6話終了です!えー…二年の月日をすっとばしていってますが…。
このペースで行かないとEternalの更新がやばくなっちゃうんです…(T0T)すみません。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||