Staunch Friends(約束) -7-

 

 

先を見るってことが、どれほど大切か…

一般的に言われてることだけど、

でも、実践できてる人間はそうはいない。

 

目先を見失うほど間抜けじゃなく、

先延ばしにするほど、バカじゃない。

 

そういう人間になりたいと思ったのは…もしかしたら、お前といたからかもな。

 

…冗談だよ。

 

 


 

20の春…学年年齢で言えば、21の春…。

社会人として迎える新しい毎日が始まった。

俺は、就職先の店のスタッフとある程度顔見知りだと言うこともあり、

周りの環境も、スタッフ達との関係も最高の状態を早々に築くことができた。

 

毎日勉強と実践で、忙しいが充実感を味わえる毎日…。

そんな日々に、幸せを感じた。

 

…海流はといえば、9月からアメリカ留学するので、

その下準備で慌しい生活を送っていた。

 

 

そして、8月…

仕事のリズムにもすっかり慣れて、毎日をこなすのが大分楽になったころ…

海流の出立が近づいてきた。

 

出立二日前…店も休みだったので、海流の荷造りを手伝った。

「全く…語学専門でもないのに留学なんて贅沢な奴だ。」

「ははっ、そう言うな。俺の我儘は今に始まったことじゃないだろ♪」

我儘ねえ…行く理由が“最新の研究設備があるから”ってのは、

研究バカとしか言いようが無いが…我儘ではないだろう。

海流は授業料に始まり、去年から始めた一人暮らしの部屋代、生活費…

その全てを、自分で稼いだ金で賄っていた。

経済学部でもなければ専門でもないのに株で百万単位を稼ぐこいつに、

俺は感心を通り越して半ば呆れていた。

当然、留学費用も自費である。

海流曰く、“株はバイトと違って場所関係なく稼げるから便利”なのだそうだ。

まぁ確かに…株ならアメリカに行こうがアフリカに行こうが稼げるだろうが…。

「よし、終わり。サンキュ、悠馬。」

海流はスーツケースの鍵を閉め、ふうっと大きく息を吐いた。

「いよいよって感じだな…。」

「ああ。」

「足りない物があったら言えよ。送ってやるから。」

「大抵の物は、むこうにあるさ。」

「どうかな?日本食とか…恋しくなるだろ。お前もともとあっさり系好きだから。」

「はははっ、確かに♪お見通しかよ。お前にはかなわないな。」

「思っても無いくせに、よく言うな。」

「思ってるよ。」

くすくすとここちいい声が、今は片付いてほとんど何もないワンルームの部屋に響いた。

「楽しみだな。」

「そりゃな。………まぁ、でも一つ…残念なことがあるんだけどな。」

「何だ?」

こいつが残念と言う言葉を使うのは、珍しい…。

一体なんなのかと、興味津々に聞くと…思ってもみなかった単語が耳に入った。

「…カルフォルニア…」

「は?」

「本当は、カルフォルニアに行きたかったんだよな。」

「……………何で?」

「あそこの青空は、綺麗なんだよ。」

「…………………………。」

考えつきもしなかった言葉に俺は呆然とする。

「…ぷっ…あっはっはっはっは!」

!?

「その顔!!」

「な、何だよ。」

「お前のそういう顔、“予想しなかったこと”に遭遇した時にする顔…最高♪

 滅多に見れないからな、行く前に見納めたかったんだよ♪」

…………………。

………………こいつ…。

「てめぇ…。」

「ははっ、まぁまぁ…そう怒るなよ。」

誰のせいだよ…。

「ったく、何なのかと思えば…。」

「まあ、でもカルフォルニアに一番行きたいってのもその理由も本心だけどな。」

「お前…空で行く場所決めるなよ。」

「別に良いだろ?…今回は違うんだし。」

「……『今回は』?次まで考えてるのか?」

その言葉に反応した俺に海流は苦笑いした。

「行ってみて、触発されたら…の話さ。」

…どこまでも、向上心の強い奴…こいつの器には日本は小さすぎるのか?

「…先を、見すぎだバカ。とりあえず無事に帰ってくることを考えろ。」

「ははっ、お前も先を見すぎだろ?行く前からもう帰国の話かよ。

 とりあえず無事に向こうに着かなけりゃだめだろうが。」

「…そりゃそうだな。」

二人で互いの目先の見えて無さを、笑い合う。

殺風景な部屋の床であぐらをかきながら…

どこにいても、互いに地球上に存在する限り…

俺達の間ではこんな会話は当たり前に繰り広げられるんだろう。

まったく…腐れ縁もいいとこだな。

 

 

出立の日、大勢のダチに見送られ、海流は旅立った。

海流を慕って集まった多くの人たちに向けられた…

とびきりの、キレイな笑顔…。

それはもう…完成された芸術か何かのようで、少し物悲しかった。

その笑顔をいぶかしげに見ていた俺に気付いた海流は、

苦笑いして、手を振ってゲートの中へ消えていった。

 


 

目標ができた。

25までに、店を持つ…。

そのために必要なものは、

まず、技術。

人脈。

金。

信頼。

とりあえずさしあたって大きい物はそんなものだろう。

…ということで、技術勉強の合間に株の勉強をし始めた。

株はやり始めると中々面白い。

もともと先を読んだり、流れを見たりするのが好き…というか、

そういうものを性分として持ってる俺にはどうも合っているようで、

失敗をすることはほとんど無く、地道ながらも、それなりに稼ぐことができていた。

 

そして、株で稼ぐのにも少し慣れたころ、海流にも話してみた。

 

「最近、株を始めたよ。」

『そうなのか?…お前のことだ、結構稼いでるんだろ。』

「お前ほどじゃない。」

『楽しいか?』

「まあ…な。」

『あれは、洞察とか、先読みの力が大きいから…お前には、あってるんじゃないか。』

「…どうかな。」

『なんでまたいきなり始めたんだ?』

「ちょっと目標ができたんでね。」

『何だ?』

「秘密。」

『…まあそのうち分かるからいいけど…。』

「何で?」

『お前の目標=達成されることだから♪』

「…あんまり買い被るな。」

『ばーか。俺は、過大評価するほど間抜けじゃないし、

 過小評価するほどバカでもないよ。』

「…知ってる。」

『当然。 で、

 お前が目先を見失うほど間抜けじゃなく、

 先延ばしにするほど、バカじゃないって俺も知ってる。』

「…食えない奴。」

『ははっ、美味しく頂かれてたまるかよ。』

「“美味しい”なんて自分を過大評価してるぞ。」

『…てめー…』

 

話しているうちに、そこにいるわけでもないのに場の空気が変わる。

過ごし易く、心地いい雰囲気に…。

それがどれほど遠くでも変わらない。

それが、俺達の関係だった。

 

だから、歩める…それぞれが、それぞれの目標への道を…。

追い越されないように…。

 

笑い合って、けなし合って、先を見ることができるんだと、感じた。

 

 

その日から、海流と電話をするごとに経済界の動きを語り合うようになって

すっかり株に目覚めた俺は、

1年後、海流が戻ってきた時には、

目標額の3分の1を貯める事に成功していた。

 

 


 

 

俺は、物心ついてから…

先を見る大切さを知り、理解して、できるだけ実践してきた。

 

そんな俺の努力も、結局お前に食われてしまった。

お前に関して先を見ることができなかった。

 

 

「負けたよ、海流…。」

 

 

なんて、言うつもりはさらさらないけどな。

 

悔しい思いさせられたんだ…恨み言くらいは…言わせろよ?

 

 


 

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7話になってしまいました。えー次回は、同窓会です。

ここからはすっとばしていきます☆Eternalのために!!!泣。

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